エース山田陽翔という“運命的な存在”

　多賀はそういう経緯から自らの教え子になった山田には数奇な運命を感じると語る。

「今年のセンバツで代替出場しましたけど、その背景には、昨秋の神宮大会で大阪桐蔭が優勝して、出場枠を1枠持ってきたことが大きかったと思います。でも、大阪桐蔭がそこまで強くなった要因には、夏、甲子園でうちに負けていることが大きかったと思うんです。山田の踏ん張りで、大阪桐蔭を破った。うちはベスト4まで行きましたけど、あの敗戦から大阪桐蔭は本当に強くなったと思う。そして、その大阪桐蔭が1枠を引っ張ってくれたわけですから」

　代替出場があったとしても、7枠でなく6枠だったら、近江がこの春のセンバツに選ばれたとは考えにくい。そう思うと、この春の出場が数奇な運命だったという多賀の指摘もあながち間違っていないのかもしれない。

「山田はそういうものを持っている子やからと期待するところはあるんですよ。春の県大会で優勝して近畿大会で大阪桐蔭とやりました。試合から1週間くらい前に登板について聞いたんですけど、僕はてっきり『1試合、投げさせてください』と山田はいうと思った。しかし、『僕は5回まででその後は星野（世那）に投げさせてほしい』と言ってきた。日本一を取る気なんですよ。投手一人では勝てないから、と。だから、山田がこの夏も何かを起こしてくれるんじゃないかとそんな気がしているんです」

　2018年のベスト8進出から確実に流れは近江の方へと向いている。

　山田とともに目指す滋賀県勢初の日本一。　

　この流れを逃すわけにはいかない。

©Hideki Sugiyama

＜後編へ続く＞ 

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