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イニエスタが「うつ病」で苦しんだ日々「私はサッカーのやり方を忘れてしまったように…」最悪の時期からどうやって回復したのか
text by
アンドレス・イニエスタAndres Iniesta
photograph byJMPA
posted2022/06/05 17:02
2010年南アフリカW杯でのイニエスタ
困難な状況にあるとき、周りにいてくれた人たち。彼らがいてくれると落ち着きました。私とともに耐え、私に過剰な負担をかけないようにしてくれました。
いかなる瞬間も、彼らはきちんとした節度を持ち合わせてくれていました。恐怖と不確実なことばかりの数ヶ月間、彼らは私の宝物でした。とてもデリケートな瞬間に、それぞれの立場で私に付き添ってくれました。私の表情を読み取り、私の沈黙にさえ耳を傾けてくれました。
人生にはいくつかの段階があります。次の段階に移る瞬間まで、私の人生はそれまでとは全く違っていました。あの経験がまた表面化し、私を苦しめることがあるかもしれません。
それでも、私は自分が直面した場面で経験を積み、知識を得ることができたので、以前よりも怖がらず、心配せず、気楽に過ごすことができるでしょう。学習が成せること。スポーツのように、人生もまた継続的な学習です。悪魔たちは追い払われました。きっと永遠に。
「ひとつは勇気、そしてもうひとつは寛大さ」
「うつ病のようなプライベートなことを公にできるのは、アンドレスの性格における二つの特徴を物語っている」
インマはそう言いました。
「ひとつは勇気、そしてもうひとつは寛大さ」
どんなに深刻な問題でも解決するためには、カギを握っている人に頼る勇気が必要です。そして、誰かと問題を共有する寛大さも。私の問題は当初、誰も知りませんでした。しかし、いまでは全員が知っています。
チームメイトも監督も、かつては私のなかで何が起こっているかわからなかった人たち全員が知っています。私がうつ病であることを公にしてから、多くの人たちが怖がらずに「自分もうつ病だ」と告白するようになったと聞きました。
私が自分の経験を語ることによって、多くの人が自分の問題を解決しようと一歩踏み出し、専門家を訪ねるようになったことはうれしい限りです。
誰にでも起こりうる問題を克服するためには、勇気と寛大さが必要です。内面よりも見せ方にこだわるにようになった社会で、人生は目に見えるものだけではないことを世の中の人々に知らせる勇気と寛大さ。人生、人はそれぞれ自分のなかで生きています。