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イニエスタが「うつ病」で苦しんだ日々「私はサッカーのやり方を忘れてしまったように…」最悪の時期からどうやって回復したのか
text by
アンドレス・イニエスタAndres Iniesta
photograph byJMPA
posted2022/06/05 17:02
2010年南アフリカW杯でのイニエスタ
「うつ病に原因が必要であるかのように」
でも、原因など必要ありません。こうした困難は、何によって起こったのか、原因など一切問わずにやってきては、その人の頭のなかにプログラムされ、抜けなくなっていくだけなのです。バルサでは、私の状態がよくないことは知られていましたが、私の中で本当は何が起きていたのかは誰もわかっていませんでした。私の回復はまさに総力戦でした。
ドクターから、いまは私の妻ですが当時はまだガールフレンドだったアンナ、母マリ、父ホセ・アントニオ、妹マリベル、そして彼女のパートナーであるファンミまで。全員がインマに同じ質問をぶつけたそうです。「アンドレスの回復のために、自分にできることはありませんか?」
サッカーのやり方を忘れてしまったように感じていました
<勇気と寛大さ 人生、人はそれぞれ自分のなかで生きています。>
私はサッカーのやり方を忘れてしまったように感じていました。
周りの人たちからは、外見上はそれまでと全く変わらなかったと言われていましたが、中身は既に壊れていました、とてつもなく。
このままでは将来どうなるかわからないぐらいに。「以前のように戻れるのか」心配で心配で、インマに何度もそう尋ねたことを覚えています。
それでも、私は診察に一度も遅刻することなく、インマとの会話を毎回楽しみにしていました。約束の時間の10分前には診察室がある建物に着き、インマにあいさつをして、席に着いて、話が始まるのを待ちました。
診察をキャンセルしたことなど、もちろんありません。あの頃の私にとって、それが一番大事なことでした。悪い状況から、少しづつでも最高の結論を導き出す。悪魔のような曇りの日でも繰り返し、繰り返し。
私はたくさんのことに気づきました。最悪の時期を過ごした後、以前より“いい人”になったような気がしました。いまもそのことを実感しています。
サッカーをプレーすることだけが人生ではない
私はネガティブなことでいっぱいの数ヶ月から、ポジティブな教訓を引き出しました。自分自身への理解度も増してきました。
以前より、自分の周りの状況をよく分析できるようにもなりました。いまでは自分の周りのものをより良い方法で、大切にすることができます。それまでとは違うアンドレスなのです。
偶然の結果ではありません。悪いことも、困難なことも、生きてきたすべてのシチュエーションに現れます。そして、それらはより良い方法で未来を切り開くために役立つ経験となります。私はいま、自分が闇を克服するために多くの助けを得られた、恵まれた環境に感謝しています。
私は、サッカーをプレーすることだけが人生ではないとはじめて気づきました。