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ドイツ地元記者が語る、23歳伊藤洋輝が“発見された”瞬間「Google検索しても引っかからない」けど「W杯メンバーに入るのでは」《日本代表デビュー》
text by
円賀貴子Takako Maruga
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/06/03 11:05
6月2日のパラグアイ戦で日本代表デビューを飾った伊藤洋輝。左SBでスタメン出場し、後半からはCBのポジションについた
伊藤がいきなりトップチームに加わることになった経緯をモシディス記者はこう説明する。
「ある日、トップチームの練習前に早めに着いて、セカンドチームの練習を見ていた(ペレグリーノ・)マテラッツォ監督の目に止まったのが伊藤だ。左利きで、体も大きすぎず小さすぎず、技術も優れている。だからすぐに、自分のチームのオーストリア合宿に帯同させてよく見てみたいと願い出たんだ」
「もちろん、マテラッツォ監督がセカンドチームの練習を見たのはこの日が初めてではなく、普段から機会があれば見るようにしているから、この日でなかったとしてもいずれは伊藤を”発見”していただろう」
とはいえ、この早い時点で”発見”してもらえたからこそ、これほどの飛躍が可能だったのかもしれない。
合宿と練習試合で伊藤がトップチームのレベルで十分できること、その謙虚な姿勢と高い学習能力を確認したマテラッツォ監督は、シュツットガルトに戻ってからも伊藤を手放さず、トップチームで練習させる。
そしてブンデスリーガ第1節と第2節はベンチに座らせて、第3節のフライブルク戦62分にピッチに送り出す。試合は2-3で敗れたが、伊藤が十分やっていけることを確信した監督は、それ以降、伊藤のプレー時間を徐々に増やしていった。第5節のレバークーゼン戦で初先発し、第8節には初めて90分出場を果たし、第13節のマインツ戦(2-1)で初ゴールを決めるなど順風満帆で、2021年11月にはブンデスリーガの「ルーキー・オブ・ザ・マンス」にも選ばれた。
そしてライバルだったマーク=オリバー・ケンプフは冬の移籍期間にヘルタ・ベルリンへ移籍していなくなった。
冬の時点では絶対欠かせない存在に
「遅くともこの時点で、伊藤はチームに絶対欠かせない存在になっていた」とシュツットガルト新聞のグレゴール・プライス記者は思い起こす。その通り、2022年に入ってから伊藤は、コロナ感染で隔離が必要となった3月の1試合を除くほぼ全ての試合で、先発フル出場している。
「ちなみにケンプフは、2021年夏の時点で移籍を希望していた。それが叶わずに少し心ここにあらずだったところに伊藤がやってきて、監督に大切にされるのを見て、いくらか怠慢さが表れていた部分もあった。それがなかったら、やはり経験豊富でデュエルにも強いので、マテラッツォ監督も引き続きプレーさせていた可能性もある」(モシディス記者)
先述した夏合宿帯同の経緯も含め、伊藤はタイミングと運にも恵まれたということだろう。
そしてプライス記者は「遠藤航も大きな助けとなった」と考える。ピッチ上での理解という意味でもそうだし、プライベート、生活面でも。「残留を決めたあのシーン、伊藤が頭で流して遠藤のゴールをお膳立てしたあのシーンの成り立ちが、それを描いているようだった」と、3週間経っても感動は薄れていないようだ。