マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
元ロッテ渡辺俊介の長男が入部で話題 この春も“0勝10敗2分”東大野球部の今…OBが語る「“歴代最高”の捕手がいる」「東大戦法しかない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/05/26 17:02
東大野球部の現エース・井澤駿介投手(4年・180cm80kg・右投右打・札幌南高)。この春は東京六大学で10敗2分と勝利できなかったが、東大野球部の現状は?
「僅少差の試合を守りきって勝つのはたいへんだっていうのは、私もさんざん経験しているわけですよ。ただ、“東大戦法”っていうのかな……圧倒的な打力がないかぎり、勝とうと思ったら、0対0で終盤までくっついていって、最後の最後で1点、2点とか、そういう戦法しかないんだよね。序盤に、ボンボンって、3点、4点取って、相手を本気にさせちゃダメ。怒らせないように、怒らせないように……東大相手ならいつでも勝てるわ、と思わせておいて、最後にサッと勝ち越して。それには、宮台君クラスの試合を作れるピッチャーが欲しいですね」
喜入アナウンサーの述懐は、さらに具体的に、「僅少差」の重要性を説く。
「私は大学4年間で6勝しましたが、むしろ負け試合からの『学び』の方が大きかったです。特にリードした展開、もしくは、同点の展開の難しさは痛感しました。大学4年(2016年)春のリーグ戦で早稲田に0-1(相手投手・ソフトバンク大竹耕太郎投手)、明治に0-1(相手投手・中日柳裕也投手)で負けた試合がありました。その2試合を経験して『1-0でも勝ち切る力』が大事だということを痛感しました。特にその明治戦です。
宮台投手と柳投手の投げ合い、0-0で迎えた9回裏1アウトランナー3塁で柳投手が打席に立ちました。バットを引けばデッドボールというインコースの危険球をスクイズ。鮮やかに3塁線に転がしランナー生還。サヨナラゲームとなりました。その試合、私は打席から柳投手を見て、私は『0点で抑えれば負けはしない』、そんな気迫を感じました。野球部の井手峻監督もよく仰っているのが『投手に耐えてもらうことが大切』ですから」
150キロ前後の速球を武器にする水口創太投手(4年・194cm87kg・右投右打)を擁して、今季リーグ戦の最後まで優勝争いに食い下がった京都大学。北海道大学には、やはり150キロの剛速球を続ける宮澤太成投手(4年・183cm81kg・右投右打)が君臨。昨季、九州大学からNPBを目ざして独立リーグ・火の国サラマンダーに進んだ芦谷汰貴投手(174cm78kg・左投左打)は、持ち味のクロスファイアーと勝負根性で奮投中だ。
旧帝国大学の野球部に、これまでになかった新しい「風」が吹き始めているようだ。いまだ、「野手」がプロ野球に進んでいない東京大学に、そのバイオニアが現れる予感が漂う。「東大の頭脳」がプロ野球でマスクをかぶって、「チームの頭脳」となる。なんだか、すごく胸おどる痛快な想像が広がっていく。
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