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「今、NHLに最も近い日本人」平野裕志朗26歳…2部で活躍も、なぜ“下から2番目の契約”に?「契約社会は差別かというくらいきつい」
posted2022/05/26 11:01
text by
和田隆文Takafumi Wada
photograph by
KYODO
105年の歴史を誇る最高峰の北米アイスホッケーリーグ(NHL)でプレーした日本出身のフォワード(FW)は、まだいない。平野裕志朗はこの冬、「香り」をほんのり嗅いだ。
年明けにNHL傘下の2部にあたるアメリカン・ホッケーリーグ(AHL)のアボッツフォードから声が掛かった。同行できる試合数が限られたトライアウト契約。AHLで日本出身選手初となるゴールを決めた1月22日のサンディエゴ戦が、一つの転機になった。
「ここで結果を出せなきゃ、ここの上のラインには戻って来られないなと思っていた。このワンシフトで決めてやると」
我を捨ててチームの求めに応え、5試合目の出場で初めて上から二つ目のラインに入って静かに高ぶっていた。通常はFW3人とディフェンダー(DF)2人、ゴーリー(GK)1人の計6人のセットでプレーし、体力の消耗が激しいため選手交代が頻繁に行われる。FWは3人一組の「ライン」が4つ。その序列の2番目に上がった一戦の開始10秒で結果を出した。
フェイスオフ直後に自陣から前に出たパスに相手が対応できず転倒。右サイドで味方がこぼれたパックを拾い、2対1の数的優位から、左にいた平野がラストパスを直接たたき込んでネットを揺らした。
少しの運も引き寄せ、ここから二つ目のラインにほぼ定着することになる。
周りにNHL経験者たち…そこで何を感じたか?
平野が「トップ6(シックス)」と呼ぶ上位二つのFWラインは、自身を除いて「NHLで何十試合も経験している選手だった。3人くらいは(シーズンの)最後1カ月くらい、ずっとNHLでやっていた」。そこでもまれ、シーズン最終盤まで生き抜いた。
「プレーの質が他より高い。パスの精度、決定力。あとは攻めだけではなく守り。相手より一歩先に戻れていたから防げた、というのを一緒にプレーしていて感じた。そういった細かい部分をしっかりできている。ディテールですよね。そこはNHLの香りだったのかな」