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「そこまで落ちたか原辰徳と、血が沸騰してくるような感じ」巨人・原監督が中田翔に“6245打席目での送りバント”で乗り越えて欲しかったものとは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySankei Shimbun
posted2022/05/21 11:03
5月13日の中日戦、プロ入り15年目で初めて送りバントを決めた中田翔
「そこまで落ちたか原辰徳と、血が沸騰してくるような感じだった」
「その瞬間? そこまで落ちたか原辰徳と、血が沸騰してくるような感じだった」
原監督は捕手が立ち上がった瞬間をこう振り返っている。
「だけどその一方ですごく冷静でもあったし、ボールはよく見えていた。だから打席に立ったときには、それまでノーヒットだったけど自信のようなものもあった」
2ボール2ストライクからマウンドの吉井理人投手(現ロッテピッチングコーディネーター)が投じた6球目。原監督の放った打球は左翼席へと飛び込んでいった。
チームにとっても、原監督自身にとっても起死回生の満塁本塁打。原監督は3勝3敗で迎えた第7戦でも試合を決める2ランを放って、チームは3連敗から4連勝で逆転日本一に輝いた。
「ただ満塁ホーマーを打った瞬間より、もっと鮮明に覚えていることがあるんだ」
「ベンチに戻って座った瞬間だった。スッと冷たいものが……」
後に原監督はこの日本シリーズの満塁弾を振り返ってこう語っている。
「ベンチに戻って座った瞬間だった。スッと冷たいものが背中を走ったんだ。もし、ここで凡退していたら。もし、この打席で打てていなかったら、自分はどうなっていたんだろう、と。そう思った瞬間に、背筋を悪寒が走った。人は嬉しさよりも、本当にゾッとした瞬間の方が鮮明に覚えている。だからそういう経験は糧になる」
歓喜に浮かれるのではなく、自分の置かれている立場を冷静に認識して、気持ちをもう1度、引き締める。そこからしか再起はないということだ。
中田は連続本塁打を放った次の15日の中日戦で3打数無安打に終わると、中島宏之内野手の状態がいいことから、広島3連戦と阪神戦3連戦の初戦もベンチスタート。それでも阪神戦では土壇場の延長12回無死満塁で代打に起用されると、1ボール2ストライクから決して大振りはせずにコンパクトにセンター方向を狙ってと試合を決める2点タイムリーを放った。
それも中田が出した巨人での野球の答えだったのかもしれない。
言葉では分かっていたが、実際には経験したことのなかった巨人の、原監督の野球。その洗礼を受け、そして「血が沸騰してくるような」場面を乗り越えて結果を出した。もう中田は借りてきた猫ではなく、本当の巨人の一員になっていけるはずである。
すべてはあの送りバントから始まった。
だからこそもし、あのバントを失敗していたら……そう考えると背中を冷たいものが走る。
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