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「そこまで落ちたか原辰徳と、血が沸騰してくるような感じ」巨人・原監督が中田翔に“6245打席目での送りバント”で乗り越えて欲しかったものとは?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySankei Shimbun
posted2022/05/21 11:03
5月13日の中日戦、プロ入り15年目で初めて送りバントを決めた中田翔
原監督「(中田は)借りてきた猫みたいで……」
どれだけの言葉よりも、1つの送りバントのサインが伝える重みがあるからだった。
「自信しかない」と大見えを切って突入した巨人2年目のシーズン。しかし開幕前の絶好調とは裏腹に、開幕直後から中田のバットから快音は消え、4月22日には一軍登録を抹消された。
実はこの抹消の直前に原監督に中田のことを聞くと「何かもう一つね、借りてきた猫みたいで、本来のものが出ていない。いまのままじゃダメだと思うけど、もうしばらく一軍に置いて様子を見たい」と語っていた。
その直後の抹消だったのだ。
突然の決断の理由を改めて確認すると「本人の体調もあったけど、今回はコーチから進言があって、その意見を聞くことにした」ということだった。首の違和感もあっただろうが、実は中田の不振を重く見たコーチ陣の進言を受け入れて、方針転換したということだったのだ。
本当の意味で巨人の選手となる“洗礼”の機会
そうして5月10日に一軍に再登録された。このリフレッシュから再スタートの機会を逃したら、再び中田は借りてきた猫になってしまう。
だからこそ原監督は、本当の意味で巨人の選手となる“洗礼”の機会を狙っていた。
チームのために、勝利のために自分の打席を犠牲にする価値を感じてくれ。その姿を見せ、そこでその価値を感じるようになってこそ、本当の意味で巨人の一員になれる。
中日戦の送りバントのサインには戦術的な選択と同時に、そんなダブルミーニングが込められたものだったはずである。
中田の送りバントでチームはこの回、勝ち越し点を奪った。そして8回には、今度は中田自らが劇的な2ランを放って勝利を決定づけた。
そして翌14日に放った満塁弾だ。