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ドラマ生んだテイオー、あっさり負け鮮やかに勝ったウオッカ…GIでの“1番人気連敗記録”を調査して分かった「スターホースの存在感」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAFLO
posted2022/05/13 17:02
64年ぶりの牝馬ダービー制覇を成し遂げたウオッカ
翌96年、年明けから1番人気が連敗したGI5戦のうちの2戦を田原の騎乗馬が勝っている。桜花賞のファイトガリバーと、高松宮杯のフラワーパークだ。田原のマヤノトップガンと、武のナリタブライアンが阪神大賞典で600mにわたって叩き合った名勝負が見られたのもこの年だ。「元祖天才」の手綱が冴えわたった。
2012年も年明けからGIで1番人気が負けつづけたわけだが、それまで9戦連続連対していたトランセンドがフェブラリーステークスで7着、5連勝していたロードカナロアが高松宮記念で3着、前年クラシック三冠と有馬記念を圧勝したオルフェーヴルが天皇賞・春で11着に敗れるなど、大本命が崩れた。競馬の怖さをあらためて思い知らされた。
ワースト記録(07年)の主役はウオッカだった
時は前後するが、GI1番人気12連敗というワースト記録の07年はどんなシーズンだったのか。これも、95年同様、勝ち馬と1番人気の馬の着順を列挙したい。これも左が勝ち馬、右が1番人気の馬と着順である。
(1)桜花賞 ダイワスカーレット/ウオッカ 2着
(2)皐月賞 ヴィクトリー/アドマイヤオーラ 4着
(3)天皇賞・春 メイショウサムソン/アイポッパー 4着
(4)NHKマイルカップ ピンクカメオ/ローレルゲレイロ 2着
(5)ヴィクトリアマイル コイウタ/カワカミプリンセス 10着
(6)オークス ローブデコルテ/ベッラレイア 2着
(7)ダービー ウオッカ/フサイチホウオー 7着
(8)安田記念 ダイワメジャー/スズカフェニックス 5着
(9)宝塚記念 アドマイヤムーン/ウオッカ 8着
(10)スプリンターズステークス アストンマーチャン/サンアディユ 2着
(11)秋華賞 ダイワスカーレット/ウオッカ 3着
(12)菊花賞 アサクサキングス/ロックドゥカンプ 3着
こうして見ると、主役はウオッカだったことがよくわかる。自分が1番人気になった3戦では負けて、1番人気ではなかったダービーを勝ち、GI1番人気連敗記録樹立の立役者になっている。自作自演ではないが、あっさり負けたかと思えば、びっくりするほど鮮やかな勝ち方をするのがウオッカらしさであり、だからこそ人気があった。忘れられないシーズンになっているのは、64年ぶり、史上3頭目の牝馬のダービー馬となった歴史的名牝に、こんなふうに気持ちを揺り動かされたからかもしれない。
92年にドラマを生んだのはトウカイテイオー
07年に行われた平地GIは22戦。そのなかでの1番人気12連敗もすごいが、割合でいうと、GIが16戦しかなかった92年の1番人気10連敗のほうが上である。
何しろ、1番人気のミホノブルボンがダービーを逃げ切ったのが、この年のGIでの1番人気による最後の勝利だった。
つづく宝塚記念から有馬記念まで、つまり、春の終わりから年末まで、ずっと、GIでは1番人気が負けつづけたのだ。
この92年も、07年のウオッカと同じように、自分が本命になったときは負け、そうでなかったときに勝ったスターホースがいた。
トウカイテイオーである。