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ソダシの気性は「ゴールドシップより荒いかも」…じつは気難しい“純白のアイドル”と吉田隼人がヴィクトリアマイルで狙う逆襲
text by
太田尚樹(日刊スポーツ)Naoki Ota
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/05/14 17:02
4月上旬に放牧先から帰厩したソダシ。吉田隼人騎手を乗せ、今浪隆利厩務員に引かれて調教へ向かう
ただ、その緊張感を味わえるのは限られた者だけだ。連勝が止まったオークスの直後。「負けさせてしまった」と肩を落とす吉田に、声をかけてきたのは武豊だった。
「ユタカさんに『勝ってたら次が大変やったぞ』って言われたんです。今から考えると、あのひとことで楽になれました」
百戦錬磨のレジェンドは、かつて同じ勝負服を来てディープインパクトを駆り、連戦連勝の栄光だけでなく、痛恨の敗戦も味わった。だからこそ、吉田の落胆を察して励ましをくれたのだろう。その言葉は徐々に胸へと染み込み、沈んだ心を軽くした。
同じ勝負服で大阪杯を制覇「着れば心強い」
かけがえのない経験は、一途に上を目指し続ける38歳の糧となっている。先月の大阪杯では単勝58.7倍のポタジェで制して大波乱を演出。昨年の年度代表馬エフフォーリアをはじめとする強敵にもひるまず、不屈の思いで挑んだ結果だった。
「圧倒的に強い馬がいましたけど『どこかで爪痕を残してやる』と挑んだ一戦でした。ハイペースに巻き込まれそうになっても『勝ち負けするにはついていかないと』と思って。踏ん張ってくれてよかったです」
そのポタジェもまた金子真人の所有馬だった。縁と謝意を感じずにはいられない。
「すごいオーナーで、これだけチャンスを頂けるのが不思議なぐらいです。あの勝負服の馬は強く見えましたし、憧れでしたから。着れば心強いのもあります」
そんな「黒・青袖・黄鋸歯形」の勝負服をまとい、9カ月ぶりの白星をかけてソダシとヴィクトリアマイルに臨む。もちろん今も重圧はある。だが、心は潰れない。
「緊張はします。けど、パフォーマンスに影響するとかはあまりないです。逆に燃えるっていうか。自分を追い込んで奮い立たせてる部分はありますね」
そう、吉田自身も、もの静かな外見に熱き気概を秘めている。たとえば勝利直後のガッツポーズ。全身の毛穴から感情を噴き出すかのようだ。小学校5年で乗馬を始めた頃には、木馬や自転車の上で、武豊ら名手のポーズをまねていたという。「僕なんかチャンスが少ないんで、勝った時にガッと出ちゃいますね」と照れ笑いする。
絵になる人馬は、それぞれ荒ぶる魂を胸に包んでいる。だからといって、似た者同士と決めつけてしまうのは少しばかり強引かもしれない。それでも、ソダシの馬上には、やはり吉田隼人こそふさわしい。
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