駒田徳広は1989年の日本シリーズ第7戦、加藤哲から先制ホームランを放ち、3塁ベースを回る直前、マウンドに向かって「バーカ！」と叫んだ仇敵である。

「当時は、選手同士が敵対心を持って戦っていましたから。でも、終わってしまえば、そんな気持ちはなくなる。駒田さんも自分と同じタイプだとなんとなくわかっていました。引退してからテレビで何度も共演して、仲良くなりましたね」

日本シリーズ第7戦で先制ホームランを放った駒田徳広　©Makoto Kenmizaki

駒田親子の断絶を修復させた“加藤の言葉”

　加藤哲が「親父さん元気か」と聞くと、駒田真子は「実は疎遠になってるんです」と告白した。彼女は高校生の時に漫画『カイジ』を読んで、麻雀に興味を持った。卒業後に雀士を目指すも、父親の理解を得られず、家を飛び出していた。加藤哲は「真面目にやってたらな、そのうちわかってくれるから」と励ました。

「駒田さんと会った時、『あまり心配しなくてもいいと思いますよ。どんなことがあったかわからないけど、ホントに素直ないい子ですよ』と伝えました。程なくして、駒田さんのお嬢ちゃんから『今からお父さんに数年ぶりに会ってきます』と連絡がありました。今は仲良いみたいですし、プロ雀士になりましたね」

“元プロ野球選手”としての使命

　人生は何が起こるかわからない。加藤哲は因縁の相手の親子断絶を修復させていた。あの日本シリーズのドラマはまだ続いていたのだ。

「麻雀も楽しいけど、野球も変わらず好きです。この前、知り合いの人に『ウチの子供を見てもらえませんか』と頼まれて、公園でキャッチボールしました。僕の時間にさえ合わせてくれたら教えます。ひとりでも多くの人に野球の面白さ、楽しさ、難しさを知ってもらいたい。それが、プロ野球界にいた人間の使命だと思います」

　取材が終わり、麻雀教室のある雑居ビルを出ると、70代とおぼしき受講生たちに遭遇した。女性3人が笑顔で「あら～加藤さん」と近寄る。「今飲んできたの！」と肩を叩かれると、加藤は「誘ってよ～」と穏やかな表情を見せた。“思ったことしか言えない”男の一面がそこにはあった。

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