「繁盛店であればあるほど、お客さんは今の味を好きで食べに来る。僕が横から入って、『新しいかつお節を使ってくれ』とは言えないですよ。相手の立場や気持ちを考えれば、わかるじゃないですか。たとえば、1袋10円安いからと商品を変えて、万が一お客さんが減ったら、どうしますか。そんなの責任取れへんって思っちゃうんですよね。本当に辛かった」

　時には監督やコーチに歯向かい、大舞台でも強心臓ぶりを見せた加藤哲だが、己の気持ちに嘘はつけなかった。半年ほどでかつお節の営業職を辞めた後、体に異変が起こった。

「血を吐いて倒れました。胃潰瘍になってしまった。ストレスが溜まっていたんだなと。野球選手のほうが辛い？　楽なもんですよ。体動かすだけですから。走るのは大変やけど（笑）」

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週5日勤め…“健康麻雀・講師”の今

　人には向き不向きがある。自分に合わない仕事をすれば、誰でも苦しいのだ。その後、焼肉屋の店長を経て、『賭けない、飲まない、吸わない』を謳う健康麻雀の講師に辿り着いた。

「知り合いの人に『スタッフが1人辞めるので、もしよかったら手伝ってくれませんか』と声を掛けてもらったんですよね。現役時代、試合が終わるとよく麻雀してました。阿波野（秀幸）、小野（和義）、吉井（理人）たちと夜の11時から朝の6時ぐらいまで打ってましたね。門限？　ありますよ。誰も気にしてなかったけど」

　大阪市中央区の『天満橋会館』で働き始めてから、10年以上が過ぎた。午前10時から夕方まで週5日勤め、教室担当の木曜は1回20人程度に麻雀を教えている。

「得意分野なので、全く苦にならないですね。このままでいいのかなと試行錯誤はするんですけど、楽しいから続いている。今、僕の教室には90代が3人いて、その中に80代後半で麻雀を覚えた女性がいます。ホント、頭下がりますよ。皆さんに楽しんでもらえればいい」

衝撃の出会い…「実は私、駒田真子といいます」

　元プロ野球選手だと認識して訪れる人は20人に1人程度。むしろ、麻雀番組に出演している姿で知った人のほうが多いという。

「数年前、東京での麻雀大会で優勝した時、コスプレのお嬢ちゃんが『加藤さん、一緒に写真撮ってもいいですか？』と来て。『おお、ええよ』と言いながら、『どうせ俺のこと知らんやろ』と思ってました。撮り終わると、『ありがとうございました。実は私、駒田真子といいます』って。『駒田真子……駒田真子……駒田？』『駒田徳広の娘です』『えーっ』みたいな（笑）」

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