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「私は独自のアイデアを持っていた」オシムの代名詞“走るサッカー”の本当の意味とは?「個人の走る能力は、羽生は別にして、佐藤勇人も阿部も平均以下だった」
posted2022/05/18 06:01
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Sports Graphic Number
<初出:Sports Graphic Number 798号(2012年2月23日発売)、肩書などすべて当時>
それではオシムのサッカーの本質とは何だったのか。当時称された「走るサッカー」の正体とは一体何であったのか。
「たしかに走っていたし、そのことが強調されていましたが、同時に技術も大切にしていたし、ゴール前の局面を作るのもうまかった。オシムさんがやろうとしたことは、実は今のバルサに近いと思います」と江尻は言う。
華麗にパスをつなぐバルセロナと、選手が献身的に走るジェフ。異なるように見えて、共通点は意外に多いと江尻は指摘する。
史上最強の誉れ高いペップ・グアルディオラのバルセロナに、オシムのジェフは時間的に先行している。オシム自身、ヨハン・クライフに触発されたと認めてはいるものの、基本的なコンセプトは監督を始めた'80年代から変わっていないと述べている。
問題を解くカギは、代名詞である「走る」にあった
ならばオシムのジェフは、バルセロナを先取りしていたと言えるのか? 問題を解くカギは、代名詞である「走る」にあった。
90分問休むことなくピッチを駆け回るスタイルは、のちに「考えて」という言葉が頭につき「考えて走るサッカー」になったが、必ずしも肯定的な意味ばかりではなかった。そのときの評価を羽生が振り返る。
「リアリティのある動きで、丁寧にタイミングを取るということを意識してやっていました。ただそれが、周囲の目には『よくがんばって走っているね』というふうにしか映らなかったのが正直な印象です」
当時のサッカーで重視されたのはボールコントロール能力であり、その延長上にあるパスの技術とセンスであった。走ることも大事だが、パス&ゴーか、せいぜいパスの受け手としての2人目、3人目の動きであり、それ以上ではなかった。