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オシム「子どもが何人もいるのに、彼はクビを切られるかもしれない」…側近が明かす、ジェフ千葉を強くしたオリジナルな選手起用術
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph bySports Graphic Number
posted2022/05/18 06:00
2005年のナビスコカップを制した際のオシム。そのスタイルは日本サッカー全体に大きな影響を与えた
「試合で起こり得ることはすべて準備ができる」
「試合で起こり得ることはすべて準備ができる」と言うオシムは、試合までの1週間、具体的な練習シーンに状況を落とし込んでいった。全体像はオシムの頭のなかにだけあるため、対戦相手のスカウトがそれぞれのシーンを見ても、スタメンすら予想できない。だが選手たちは、すべての練習を終えた後、万全な状態で試合に臨めるのだった。
結果を得ることで、選手はオシムヘの信頼と自分たちのプレーに対する自信を、少しずつ深めていった。羽生が言う。
「この人についていけば、変われるんじゃないかと思えるようになった。観察力に長けていて、こいつは何ができるのか、どんな性格なのかとずっと見ている。それも特定の選手だけでなく全体を見ていてくれる」
スタッフにも責任ある役割を与え、自分で考えることを求めたと江尻は話す。
「スタメン組を僕たちコーチが、サブ組をオシムさんが見ることもよくありました。そうなると僕らにも責任が出てくるし、サブ組のモチベーションも上がる。そこでアピールすれば実際に使ってもらえるわけですから」
「選手の家族のことまで気にしながら、メンバーを選んで」
選手たちにもこう言って野心を刺激した。
「いい車に乗って、いい服を着て、ある程度の金をもらっている。優勝や降格のプレッシャーもない。中間順位にいることが居心地いいんだろうが、それではつまらないだろう。もっと上を目指せ」
サテライトリーグや練習試合も必ず見にいき、選手の状態をチェックする。その結果、シーズンを通してほぼすべての選手が公式戦に出場し、そうでない選手も、プレシーズンマッチのピッチに立った。江尻が語る。
「選手の家族のことまで気にしながら、メンバーを選んでいました。今、この選手を外したら、子どもが何人もいるのに彼はオフにクビを切られるかもしれない。それなのに安易に『調子が悪いから外せ』なんてよく言えるなと言われたこともあります」
だが1年目は、選手たちの自覚がまだ足りなかったとオシムは振り返る。