マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
なぜ高卒ドラ5の20歳がスワローズのショート“1番手”に急浮上できた? 3年前、高3だった長岡秀樹の衝撃ホームランが忘れられない
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/04/28 17:03
4月12日の広島戦、この日ヒーローとなったダメ押し打の長岡秀樹(中央)、決勝押し出しの太田賢吾(左)とつば九郎
三遊間の痛烈な打球を、右手を突いてバックハンドでむしり捕ると、素早く二塁送球で一塁ランナーを刺したプレーや、その後の県大会決勝戦で、センターオーバーの打球を深い位置まで追ったロングスローのカットプレーで三塁進塁を阻止した送球の伸びと正確さ。甲子園のかかった決勝戦の正念場の場面で、持てる力をフルに発揮できる「人」としてのパワー。挙げたらキリがないほどの才能を見せつけられた長岡秀樹の「3年夏」だった。
「教わったことの取捨選択ができる子ではありますね。教えてもらって、自分には合わないな……と思うと、捨ててほかの方法を自分で探しにいく。井端さん(弘和、元中日ほか)のグラブさばきとか、高校生の頃から、何か疑問が湧いたり、欲しい技術があったりすると、自分からネットに検索しにいって、具体的な方法論を見つけてたようですよ」(父・尚恭さん)
確かに捕った瞬間、もう右手に持ち替えているように見える技術のスピードと鮮やかさには、息を飲んだ。
「今、手首を返さない打ち方がだんだん主流になってきてるようですけど、秀樹の場合は、小学生の頃から気がついたら、そんな打ち方してたんです。投球のラインにスイング軌道を入れていくっていうんですか。聞いてみたこともないんですけど、いつの間にか自分で身につけてきたんじゃないですかね」
じつは、私の中のイメージは「広島・田中広輔」だった
ここ一番での勝負強さも、高校時代からとお父さんは振り返る。当時チームには、1年先輩に楽天に進んだ大型右腕・清宮虎多朗投手がいた。
「スカウトが清宮君を見に来るんだったら、いいチャンスだから、お前も目立てば? 『だよね』っていう感じで、スカウトが見に来ると、バーン! また見に来ると、バーン!」
先の専大松戸戦には、エース横山陸人投手を見に、8球団20名以上のスカウトがZOZOマリンのネット裏に詰めかけていたという。そのなかで、いちばん長岡に熱心になったヤクルトが、指名(ドラフト5位)に踏みきる決断をした。
それほどの選手だったのに、私の中のイメージは「広島・田中広輔」だった。走攻守どれも高いレベルで三拍子そろい、いずれはプロ野球に進む選手には違いないが、大学、社会人とステップを踏んでからのほうが合っているのでは……。
この年、高校球界には、桐蔭学園高・森敬斗(現・DeNA)、駿河総合高・紅林弘太郎(現・オリックス)、花咲徳栄高・韮澤雄也(現・広島)、西日本短大付高・近藤大樹(現・九州共立大)、富島高・松浦佑星(現・日本体育大)……個性あふれる遊撃手が全国に何人も揃っていた。
完全な見間違いだった。
「(プロ志望届を)出さなきゃ、なれないんだよ!って、母親に背中を押されてましたね。大学からの話もずいぶんいただいたんですけど、進学すれば成長するのかって、そうとも限りませんし、声をかけてくださった球団とのご縁を大事にしよう、ということになりましてね……」
よっぽどのことがないと、メールの返信もしてこないという。手塩にかけたお父さんとしては、ちょっとさみしそうだ。
「ドラフトに始まってここまで、いろんな方たちにお世話になっているはずなんです。そういう方たちに感謝するのはもちろんですけど、本人が知らないうちにすごくたいへんお世話になっている方たち……実は、たくさんいるんですね。若い頃は、それがわからない。私もそうでしたから」
そこに思いを届かせてほしいと願う親ごころ。
「まさか、自分ひとりでここまで……とは思ってないでしょうが、若いうちは何かと錯覚しやすいものです。私もさんざん失敗してきましたから。そういう、すぐ調子に乗るDNAを間違いなく引き継いでいるんですから、秀樹は。くれぐれもカン違い、はき違いしないように……ただ、もう、それだけです」
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