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「記録や順位は追わない」吉居大和、近藤幸太郎、山本修平…箱根駅伝のスター選手を輩出する“愛知のご当地クラブ”「TTランナーズ」とは?
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byKana Ikeda
posted2022/04/07 17:00
箱根駅伝で活躍するスター選手を続々と輩出しているクラブ「TTランナーズ」は愛知にある
そして瀬古の師匠といえる中村清はもっと強烈だった。「この土を食べれば世界一になれるというなら、私は食べる」と、野草がついた土を口に入れたというエピソードは有名だが、独創的な個性と、圧倒的な指導力で日本の長距離・マラソン界に多大な影響を与えた。
「中村監督は当時からマラソンで勝つにはスピードが大切だという考えでした。勧誘する選手は高校時代に中距離で活躍した選手が多かった。そして、常々、『君たちが将来、指導者になって、この中村がやっていることを伝えなさい』と口にしていたんです。その言葉がずっと頭のなかに残っていてね」
クラブのルールは「記録や順位を追わない」
仲井さんは早大卒業後、愛知県警を経てトヨタ自動車に入社。陸上長距離部の立ち上げに携わり、監督も務めた。実業団選手だった吉居大和の両親も指導している。30歳で退社すると、その後は家業を継いだ。陸上を離れた後も中村の“メッセージ”が消えることはなかったという。40代に入り、中高生の中長距離をメインにした陸上クラブ、TTランナーズを創設したのだ。
「子どもたちにはできるだけ上のステージで勝負してほしいと思っています。だから絶対に無理はさせません。クラブとしては記録や順位を追わないようにしています。それよりも、まずは身体とフォームを作ることを優先して、大学の舞台に立つときに最高の状態で送り出したいという気持ちがあるんです」
中村イズムを引き継いだ仲井さんの指導は徹底している。クラブ在籍時の結果を求めるのではなく、将来性を高めるためのスキルとココロを磨いているのだ。
山本修平は中学時代からこのクラブの指導を受けており、早大入学前には10000mで28分38秒15をマーク。箱根駅伝5区で活躍すると、トヨタ自動車では2016年のニューイヤー駅伝で優勝ゴールに飛び込んでいる。
そして今年の箱根駅伝で活躍した吉居大和、近藤幸太郎、武川流以名。この3人もTTランナーズで培った基礎が大きかった。
吉居兄弟、近藤幸太郎…どんな生徒だったのか?
「吉居兄弟は中学時代、父親が指導するかたわらクラブでも練習していたんです。大和は弟の駿恭ほど強くなかったけど、フォームが柔らかかった。幸太郎は中学時代、小柄だったんです。でもすごくいいフォームだったので、『大迫傑を目指せ!』と声をかけていましたね。全中に行きたくて、自分でレースをガンガン引っ張るのを見て、絶対に強くなるなと思いました。数秒届かず全中に出場はできませんでしたけど、理想的な伸び方をしています。
野球部だった武川は高校3年の7月くらいから来たんです。陸上未経験でしたけど、『箱根駅伝を走りたい』ということで入会しました。体幹がしっかりしていて、スピードもある。同学年の幸太郎、中学3年生だった吉居駿恭らと一緒に練習をして、あっという間に強くなったんです」