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「記録や順位は追わない」吉居大和、近藤幸太郎、山本修平…箱根駅伝のスター選手を輩出する“愛知のご当地クラブ”「TTランナーズ」とは?
posted2022/04/07 17:00
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph by
Kana Ikeda
日の落ちた豊橋市陸上競技場にランナーたちがぞろぞろと集まってくる。そのなかに懐かしい顔を見つけた。早大OBでトヨタ自動車でも競技を続けた山本修平だ。筆者に「お久しぶりです」と会釈すると練習に入っていく。
下は小学生から上は50代まで。愛知県豊橋市を拠点にする「TTランナーズ」では様々な年代、レベルの選手たちが汗を流している。このなかに未来の“箱根駅伝のエース”が潜んでいるかもしれない。なぜなら1区の区間記録を15年ぶりに塗り替えた吉居大和(中大)、箱根王者となった青学大で花の2区を務めた近藤幸太郎、最下位スタートながら3区を好走した武川流以名(中央学大)など、今年正月のレースを沸かせたランナーたちが同クラブの出身者だからだ。
なぜ愛知の陸上クラブから箱根駅伝で活躍するランナーが続々と誕生しているのか。それは、単なる偶然か、それとも必然なのか。愛知県出身の筆者はTTランナーズを立ち上げた仲井雅弘代表を訪ねた。
黄金期の早大陸上部OB「私は一番の劣等生でした」
TTランナーズを理解するうえで、まずは仲井さんの陸上キャリアを知っておいた方がいいだろう。旧姓は伊藤で、早大時代に箱根駅伝を2度走っている。4年時(第60回大会/1984年)は7区で区間賞を獲得。早大の30年ぶり10度目の優勝に貢献した。
チームの1学年上に金井豊、同学年に坂口泰と谷口伴之、1学年下に遠藤司、2学年下に川越学と金哲彦という錚々たるメンバーがいた。そして当時、早大を率いていたのが中村清だ。仲井さんは“伝説の指導者”の影響を色濃く受けている。
「私の人生で大きかったのは大学に入って中村監督と出会ったことです。中村監督はエスビー食品の監督も兼任していたので、瀬古利彦というランナーも間近に見ることができた。それは財産になっています。当時の練習仲間は五輪代表になるような選手ばかりで、私は一番の劣等生でした。でも、たまに練習でついていけたことが自信になってね。ちょっと行けるんじゃないかなと思うようになるんです」
仲井さんが大学を卒業する1984年は瀬古利彦がロス五輪に出場した年になる。当時の瀬古は世界の強豪から「世界一」と目されるほどの実力を誇り、注目度も高かった。練習拠点の神宮外苑を走れば、人だかりができるほど。ギャグが大好きな現在の瀬古とは異なり、当時は「修行僧」と称されることも多かった。