「あの『ふざけんな』っていうのは、翔平を使ってみんなにメッセージを伝えたかったというのもあった。翔平はそれをわかってると思うよ。要は、若い人には自分のほうを向いて欲しくないってこと。いつも向こう側を向いて、相手と対峙しなきゃいけない。バッターでもピッチャーでも、食うか食われるかって場になったら、命懸けで戦わないと意味がないからね。ただ、翔平の野球に対するひたむきさは、このキャンプでさらに加わっている。その手ごたえはつかんだよ。向きが自分のほうを向いているだけで、やり方は間違ってない。これなら大丈夫だって思えたし、身体も元気だったから、開幕を託すことを決めたんだ」

指揮官の迷いを断ち切った、ミスターの言葉

　栗山監督は、もし大谷に開幕投手を託すのなら、それを2月20日に伝えようと決めていた。なぜなら、その日は“ミスタープロ野球”、長嶋茂雄さんの79歳の誕生日だったからだ。大谷がプロ1年目のシーズン、二刀流について「僕、野球界の先輩方に怒られてます」とぼやいた栗山監督は、長嶋さんからこう言われた。

「何を言ってるんですか。あんな選手、野球界には80年間、一人もいなかったじゃない」

　ミスターのその言葉は、栗山監督からどうしても消せなかった微かな迷いを断ち切ってくれた。以来、栗山監督は大谷こそが長嶋茂雄の後継者になるべき存在だと信じて疑っていない。

2013年5月、国民栄誉賞授与式で。隣は松井秀喜氏 ©Naoya Sanuki

「今年、翔平に何を課したかといえば、長嶋茂雄さんがやってきたことをこれからの彼が作っていかなきゃいけないということ。だから、開幕投手を伝えるのは絶対にその日しかないって思ったし、翔平の本当の意味でのスタートは今年（2015年）なので……」

　大谷の本当のスタートは2015年──。

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