「アスリートとして競技をやっているときって、もう永遠か、と思えるくらいで、それが自分の人生のすべてだと思ってしまう。でも競技を止めてみたら、アスリートだった時間なんてほんのちょっとで、もう詳しく思い出せないくらい一瞬の出来事。その先の人生のほうが、本当に長い。だからこそ、競技に集中できている時間というのは貴重だと思うし、大事にしてほしい」

　やはり、スポーツはすべてではない。でも、その世界がすべてだと思えるほど打ち込める時間ほど、幸せなものもはない。

「今私が後輩たちに言えることは、シンプルですけど、競技をとにかく楽しんでほしい。スポーツがすべてではないと思うなかで、スポーツという道を選んだからには、悔いなくやりきってほしい。そして、人生においてスポーツは必ず自分にとってプラスになる。結果よりも、その歩みに自信を持ってもらいたいし、誇りに思ってほしいと思います」

「自分の、馬淵優佳の世界で楽しめている自分がいる」

　馬淵のアスリート人生は、思い悩み苦しむことのほうが多かったかもしれない。一時は好きという感情すら捨てるほど、追い詰められたこともあった。

　しかし、アスリートとしての人生に一度幕を下ろし、妻として、母としての生き方を知り、さらにアスリートではない人生も学ぶことができた。

　経験値を積んで振り返ったとき、アスリートとして過ごした時間が、決して苦しいだけのものではないことに気がついた。楽しかったこともうれしかったこともあり、当時の馬淵優佳も、確かに輝きを放っていた。それは今の馬淵優佳を構築するのに必要な時間と経験であったと、今なら胸を張って言える。

「（今は）自分の世界が広がりすぎていて（笑）。自分の、馬淵優佳の世界で楽しめている自分がいるのが凄く嬉しいんです。やっぱり今までは、旦那ありきの、旦那の世界の中でちょっと楽しんでいるという意識がどこかあった気がします。今は家族との時間も大切にしながら、自分の世界をちゃんと楽しめているので」

　そして今、アスリートとしてもう一度高く、高く、飛び出す。自分らしさを取り戻した本来の馬淵優佳の魂をさらに輝かせるために。

（撮影＝末永裕樹） 

#1から読む

「嫌々で飛込をやっていた自分がコンプレックスだった」馬淵優佳27歳の告白〈感情を殺した現役時代の記憶と後悔〉