だが、いざ母と同じような生活をしてみると、少し違和感があった。もしかしたら、自分の母親のような生き方をしたいのではないのかもしれない。確かに夫には競技を頑張ってほしいし、サポートもしたいと思う。ただ、自分がすべてを捧げるやり方ではなく、お互いにサポートしあい、お互い目標達成に向けて励み、お互いに切磋琢磨しあっていくというほうが合っているんじゃないか――。

　今まで持っていた固定観念が崩れ去り、馬淵のなかで全く新しい世界が開けた瞬間でもあった。

トレーニングに、子育てに、忙しい毎日でも……

　今、栃木のプールでトレーニングをしながらの子育ては、忙しいながらも充実した日々だ。やること、やらなければならないことはたくさんある。でも、それを楽しいと思えるから、決して苦ではない。子どもにも自分が頑張っている姿を見せることで、何かを感じてほしいとも思っている。

「どうしても一緒にいる時間は減りました。でも、そのなかで子どもと向き合う時間をしっかり作ったり、一緒にいられるときは楽しいところに連れて行ってあげたり。もちろん、自分が競技をしているところも見せて、ママはこうやって頑張っているんだよ、って、子どもが理解できるように努力しています」

　自分が飛込する動画を見せたときは、「ママ、怖くないの？」と言われた。

「驚いたのは、高い所から飛ぶということが怖い、と認識していること。それを聞いて、自分が思うより子どもは育っているんだなって思いました」

　もし、子どもが飛込をやりたいって言ったらどうしますか、という意地の悪い質問をしてみたら、「私に似てびびりなので、かわいそうって思っちゃう」と笑いながら、真剣にこう答える。

「まずは本人のやる気がいちばん。それは尊重しますし、親が本人のやる気を止めることはしません。どの道を進もうとも、物事を究めようと思ったら、その道が険しくなるのは当たり前です。それも踏まえてやりたい、というなら、できる環境を整えてあげたい。やっぱり“本当に好きなもの”を究めてほしいという思いは強いですね」

　意図はしていなかったかもしれないが、アスリートとして、人として、とても多くの経験を経たことで、もう一度自分と向き合うことができた。そんな馬淵だからこそ、この言葉が重たく心に響き渡る。

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