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なぜ男子マラソンで“ベテランランナー”が活躍できるのか?…35歳佐藤悠基に聞く「年齢は言い訳にできない」〈世界王者キプチョゲも37歳〉
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byJMPA/Shigeki Yamamoto
posted2022/03/26 11:01
今月開催された東京マラソン2021。この大会で35歳にして自己ベストを更新したのが佐藤悠基(SGホールディングス)だ
「レースで良かったのは、終盤をギリギリのところで粘れたことです。成長したというか進歩した部分なのかなと思います。でも、それ以外は全然よくありませんでした。レース翌日も普通に走れましたし、筋肉痛は3日ぐらいで抜けました。調整で失敗したので、体力的に出し切れなかった部分はありますね。自己ベストやMGC出場権をつかんだことの感情は特にありません。それよりも、次のレースに向けて始動したいという気持ちが強いです」
35歳になり、疲労が抜けにくくなっているのを実感した佐藤だが、それ以外の部分では自信になったようだ。
「年齢もあるので、状態を見ながら調整していくのは新たな課題です。そこが一番の反省点ですけど、そこさえ修正すればまだまだ伸びる。練習の仕上がりは2時間6~7分台は十分に狙えるものでした。マラソンでもっと上を目指せるという期待を持っています」
なぜ男子マラソン界で「ベテラン」が活躍できるのか?
近年はシューズの進化もあり、「ベテラン」と呼ばれるような選手たちが存在感を発揮している。2月27日の大阪マラソンでは37歳の岡本直己(中国電力)が自己ベストの2時間8分04秒、同じく37歳の今井正人(トヨタ自動車九州)がセカンドベストの2時間8分12秒をマーク。それから佐藤と同学年の川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)は昨年2月のびわ湖で2時間7分27秒の自己ベストで駆け抜けている。
また今回の東京マラソン2021を大会新記録&日本国内最高記録の2時間2分40秒で完勝したエリウド・キプチョゲ(ケニア)は37歳だ。2018年のベルリンで2時間1分39秒の世界記録を樹立して、2019年には非公認ながら42.195kmを1時間59分40秒で走破。36歳で東京五輪を完勝するなど、30代後半になってもまだまだ強くなっている印象だ。
「岡本さん、今井さんがあそこまで走ると年齢は言い訳にできないですし、キプチョゲを見ても年齢は関係ないんだなと思います。すでに30代後半でも記録を出せることは証明されています。日本人でも30代後半で2時間6分台、5分台、4分台を出せれば、若手にとってはいい刺激になりますし、今後の日本陸上界も変わってくる。自分が目指すべきところはそこかなと思っています」
「目指しているものが100だとしたら、まだ全然ですよ」
では、現時点で佐藤のマラソンはどこまで“完成”しているのか。
「目指しているものが100だとしたら、まだ全然ですよ。ようやく土台ができてきたのかな、というぐらいの感じです。マラソンに関してはやりたいことがたくさんある。次のレースまでは準備期間があるので、ちゃんと整理して、やりたいことを順に一つずつ取り組んでいきたい。どれだけハードなことをやれるのか。『やるか』『やらないか』の問題だけなので、しっかりケアしてやれる体をキープする。そういう日々の繰り返しだと思っています」
現時点で、次の勝負は秋の海外レースに定めているという佐藤悠基。「天才」と呼ばれたランナーのあくなき追求はまだまだ終わらない。