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若手の控室スマホも「受け入れないと…」長谷部誠38歳が“異例の5年契約”にサイン “引退後のポスト保証”でも誰も疑問に思わない理由
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2022/03/13 11:03
フランクフルトとの契約を2027年まで延長した長谷部。現役にこだわり続ける一方で、指導者としての感覚も少しずつ身に付けているようだ
監督の意図を明確に読み取り、それをチームへ伝えていく。そんな選手がいたら、監督としては心強いはずだ。長谷部は、指導者としての感覚も少しずつ準備しているようだ。
「グラスナー監督は学校の先生みたいで、細かい。突き詰めて、研究して、選手に求める。若い選手は頭がパンパンみたいです。僕も学びながらやっていますが、僕なら彼とは違うアプローチをするだろうな、と思ったりもします」
言葉は、話せば伝わるわけではない。言い方、伝える際のツール、話す時のトーン、話す際の環境や雰囲気、互いの信頼関係など、いろいろな要素を考慮しなければならない。実際に講習会で学んだことも蓄積されている。
「年代によるアプローチの違いも学んでいます。スパルタ方式が通用した年代と、今の若い世代は違う。だから、自分たちの考え方が正しいと思ってアプローチするのは違う。例えば、控室はスマホ禁止とかに関しても、若い世代にとってスマホはあって当たり前。連絡事項も全部スマホでやる年代なんです。僕も古い人間なので、そのあたりもこれから受け入れないといけないんだなって」
今回の契約を不思議がる人は誰もいない
選手としての経験を積み重ねながら、指導者としての下地も築いている。
となるとファンは「いよいよ、欧州初となるトップリーグにおける日本人監督誕生」を夢見たくなる。しかし本人は、そうした期待に応えようとは思っていないようだ。
「正直、あんまり期待しないでほしいかな(苦笑)。高いレベルにいると学ぶことが多く、選手としても感じる部分はあります。最終的に日本サッカーのためになるのは嬉しいけど、そのためにやろうという前提があるわけでもない。高いレベルのなかでチャンスがあれば、チャレンジしてみたいですけど。そもそも選手と指導者は全然違う。ライセンスの取得を目指していて、そう感じます。名選手が名監督ではないなって。長くこっちでやったから、指導者でも成功できるってことはないと思います」
地に足をつけて、自分と向き合い、やるべきことを見つける。長谷部らしさが、そこにある。
筆者はドイツで暮らすようになって20年になるが、引退後のポストも保証される今回のような契約条項は聞いたことがない。それなのに、クラブ関係者も、地元記者も、ファンも、今回の契約を不思議がる人は誰もいない。みんな納得しているのだ。
クラブのアイデンティティを体現する“生きるレジェンド”長谷部は、フランクフルトの未来をこれまで以上に輝かせてくれるに違いない。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。