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Jをめぐる冒険BACK NUMBER
《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byTaichi Chiba
posted2022/03/12 17:00
「飛び込み営業のように!」というリクエストに応えて頭を下げる岩舘直。クリアソン新宿加入して3シーズン目、当初は慣れなかったサッカーと仕事の両立も板についてきた
11月12日から14日まで連日行われた岩手での1次ラウンドを2勝1敗で突破したクリアソン新宿は、11月24日からの決勝ラウンドを東京の味の素フィールド西が丘で迎えた。
中1日で3試合を戦ったこのラウンドでもクリアソン新宿は勢いを持続させ、2勝1分で勝ち抜き、優勝を決める。
実質、8日間で6試合の過密日程をこなすなか、岩舘は危惧していた疲労やコンディションの不安を感じることはなかった。
「気持ちが昂ぶる状態を作れていたし、決勝ラウンドではお客さんが入ってくれたおかげでアドレナリンが出て、モチベーションが上がったんですよね」
例年であれば、この時点でJFL昇格が決まる。
しかし、コロナ禍でレギュレーションが変更された今回は、FC刈谷(JFL17位)とのJFL・地域リーグ入れ替え戦というさらなる関門が待っていた。
会場は、相手のホームである名古屋市港サッカー場。敗れればもちろん、引き分けても1年の努力が水泡に帰してしまう――。
だが、この大一番に臨むチームの心理状態にも、クリアソン新宿の強みがよく表れていた。
「まだ昇格していないのに、JFLのチームと対戦できるのはラッキーだ。それに、このチームでもう1試合戦えるのも幸せなことだ」
成山一郎監督の号令のもと、チームのマインドがポジティブな方向に揃っていく。
結果、4-0の快勝――。
こうして岩舘とクリアソン新宿のメンバーにとっての激動のシーズンは、大団円を迎えたのである。
「嬉しかったですけど、ホッとしたほうが大きかった。楽しむことができたと思います」
関根貴大と再会、西川周作から祝福
地獄の地域CLの大会中には、嬉しい再会もあった。
浦和時代のチームメイトで、寮で親しくしていた関根貴大が、西が丘まで応援に駆けつけてくれたのだ。
「試合後、関根と会いました。ちょうどその試合はピンチらしいピンチがなかったので、『ダテちゃん、楽してたね』と言われて、『いやいや、こっちも必死だよ』って(笑)。『ダテちゃんの試合、面白かったよ』と言ってくれたんですけど、普段はテレビやスタンドで関根のプレーを観る側なので、自分が観られる側に回って不思議な感じがしました」
尊敬する先輩、西川周作にも連絡を入れた。浦和も天皇杯で勝ち残っていたからだ。
「『優勝しました! まだ入れ替え戦は残っていますけど、必ず成し遂げるので、西川さんも優勝お願いします』と連絡したら、『うちも優勝するよ!』と」
名古屋の地で目標を達成した岩舘は翌日の12月19日、国立競技場を訪れた。そして、古巣がアディショナルタイムの劇的ゴールで大分トリニータを下し、天皇杯で優勝する瞬間を見届けた。
「西川さんには、年末に会う機会を作っていただいて。改めて、刺激を得ましたね」
それだけではない。かつてのチームメイトからのメッセージがたくさん届いた。
「レッズ時代のチームメイトには、僕が関東リーグの道を選んだとき、『どうして?』と聞かれたんですけど、『よくこういう選択をして、結果を出せたな、凄いな』という言葉をもらいました。高崎や水戸時代のチームメイトからも祝福の声が届いて。特に高崎時代のチームメイトはJFL昇格がいかに難しいことかを知っているので、『よく上がれたな』『凄いよ』って」
JFLからキャリアをスタートさせ、J2からJ1へ。そして関東サッカーリーグ1部を経て、再びJFLへ。
J1のビッグクラブへの移籍は、実力で引き寄せたとは言えないが、自身の原点であるJFLへの昇格は、チームメイトとともに、その手でしっかりと掴み取ったものである。
起伏の激しい自身のサッカーキャリアを振り返りながら、岩舘は改めて、さまざまな人との縁、そして幸運を噛み締めていた。
(後編へつづく)
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