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Jをめぐる冒険BACK NUMBER
《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”
posted2022/03/12 17:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
Taichi Chiba
東京23区の中で最も面積が大きいのは61.86㎢の大田区で、58.05㎢の世田谷区、53.25㎢の足立区と続く。
これらと比べても、18.22㎢の新宿区はかなり狭く感じられる。
しかし、日本一の繁華街を持つこの街が案外広いということを、元Jリーガーの岩舘直は身をもって知っている。
J2の水戸ホーリーホックに2年半、J1の浦和レッズに5年半在籍したGKの岩舘は現在、クリアソン新宿という社会人チームでプレーし、運営会社である株式会社Criacao(クリアソン)で働いている。
元Jリーガーが自転車で飛び込み営業!?
社内での所属は地域共創室。岩舘にとって大事な仕事のひとつが、新宿におけるクラブの認知度を上げるためのポスター掲示の依頼だ。
「区内全域を歩き回ったり、自転車に乗って出かけたり。(新宿御苑のそばにある)事務所の周辺や(歌舞伎町や新宿三丁目などの)つながりのある繁華街は別の人間に任せて、僕は遠くのエリアや新規のお店を攻めることが多いですね」
クリアソン新宿の存在をまったく知らなかったり、サッカーやスポーツに興味がなかったりする人に、チームや会社の取り組みを理解してもらうのは簡単なことではない。すべての店員が外国籍で、コミュニケーション自体に四苦八苦したこともある。
「やっぱり飛び込みは緊張しますよ。気まずさみたいなものもあります。そういう意味では、だいぶ度胸がついたというか(笑)」
自転車で新宿の街を駆け回るようになるなんて、ほんの数年前まで想像すらしなかった。
ところが今は、自身の所属するサッカーチームの認知度が高まり、応援してくれる人が増え、さらには、クラブや会社の取り組みが理解されていく――そういった日々に、この上ない幸せとやりがいを感じるようになったのだから、人生はわからない。
「水戸の頃もレッズでも、イベントには参加させてもらっていました。ただ、それはクラブの方々が準備してくれたものだし、来てくれるのも、僕らを応援してくれているファン・サポーターの方々。選手は受け身というか。でも、今は知ってもらうところから始まって、願わくば好きになってもらいたい。友だちになるとか、『地元の若者がサッカーやってるから、おじさん、おばさん、応援しに来てください!』っていう感覚ですね」
地域の人々との生の交流が、岩舘の意識を変えた。
岩舘は「そうそう」と続けて、表情を輝かせる。
「今回のJFL昇格をきっかけに、明らかに認知度が上がったんです。『優勝したんでしょ』とか、『なんか上がったらしいね』とか、言ってもらえることが増えて……」