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《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”
 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byTaichi Chiba

posted2022/03/12 17:00

《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”<Number Web> photograph by Taichi Chiba

「飛び込み営業のように!」というリクエストに応えて頭を下げる岩舘直。クリアソン新宿加入して3シーズン目、当初は慣れなかったサッカーと仕事の両立も板についてきた

 もっとも、優勝を決めたリーグ最終戦が行われたのは21年10月10日。地域CL1次ラウンドの初戦は11月12日だから、1カ月以上のブランクがあった。

 プロチームなら、1カ月後の大舞台に向けて合宿を張り、万全の準備をするものだろう。例えば、日本初の女子プロサッカーリーグ、WEリーグの誕生にともなってプロ化された三菱重工浦和レッズレディースは、2022年1月5日に皇后杯決勝進出を決めると、2月27日に予定された決勝に向け、オフ明け後に沖縄キャンプを張って準備した。

 しかし、クリアソン新宿は社会人チームだから、サッカーだけに集中できるわけではない。

「正直に言えば、危機感はありましたね。成長した状態で地域CLに向かわなきゃいけないのに、仕事もしないといけない。その兼ね合いは難しかったです。仕事との両立に関しては、リーグ戦が終わった直後はガーッと仕事をやって、本番が近づくにつれ、サッカーと仕事のバランスを調整していった。社会人2年目を迎えて、そこはうまくやれたかなって思いますけど、危機感に加えて、不安もありました……」

 11連勝という奇跡的な勝ち方で関東リーグ1部を制したものの、ライバルチームより戦力が大きく上回っていたわけではない。神がかり的な逆転優勝が、運に恵まれたものであることは、他ならぬ選手自身が感じていた。

 来年も関東リーグ1部を戦うことになったら、再び優勝できるだろうか……。

「そう簡単にはいかないだろうなって。ここでJFL昇格を逃してしまったら厳しいだろうということは、僕だけでなく、他の選手たちも感じていたと思います」

岩舘にとってJFLは原点の場所

 ましてや水戸、浦和に計8年間在籍したものの、ついに公式戦のピッチに立つことが叶わなかった岩舘にとって、地域CLやJFL・地域リーグ入れ替え戦はキャリアにおける最大の舞台。大一番と呼ばれるような決戦を前に、プレッシャーに飲み込まれてしまう可能性もあった。

「でも、ある時期を境に、メンタルが整っていくのが感じられたんです。覚悟が定まったというか。プロの8年間で積み上げてきたものをたくさんの人に見てもらえるチャンス。スーパーなプレーができなくてもチームが勝てばいい、結果が出なくてもベストを尽くせればいいって。ハードスケジュールで試合をやることも、楽しく思えるようになって」

 経験したことのない舞台を前に、なぜ、吹っ切ることができたのか――。

「高校を卒業して最初に入ったアルテ高崎は当時、JFLに所属していたんです。当時はプロを目指していたのに、Jリーグに行けなくてたどり着いた場所だったんですけど、こうして改めてJFLを目指すなかで、ありがたい場所だったんだなって。自分の原点のような場所に純粋に戻りたいな、これに勝てば戻れるんだって。そう考えたら、すごく楽しみに感じられた。それに、どのクラブにも歴史がある。その歴史を築く場に関われるなんて、幸せなことだなって」

【次ページ】 入れ替え戦は4-0の快勝「ホッとした」

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