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《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”

posted2022/03/12 17:00

 
《破竹の11連勝、地獄の地域CLを突破》JFL昇格クリアソン新宿の守護神・岩舘直が「飛び込み営業」しながら目指した“原点”<Number Web> photograph by Taichi Chiba

「飛び込み営業のように!」というリクエストに応えて頭を下げる岩舘直。クリアソン新宿加入して3シーズン目、当初は慣れなかったサッカーと仕事の両立も板についてきた

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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Taichi Chiba

実力拮抗の関東サッカーリーグ1部を制し、今季からJFLの舞台に歩みを進めるクリアソン新宿。「地獄」と評される地域CL、入れ替え戦を勝ち上がっていく様子は、マンガ顔負けの快進撃だった。そんなチームを最後尾で支えてきたのが守護神・岩舘直(33歳)だ。J1浦和などJリーグで8年間プレーするも、公式戦出場はなし。つまり彼のキャリアには「0」が並ぶ。稀有なサッカー人生を歩んできた男に、新たな挑戦への想いを訊いた(全2回の1回目/後編へ)

 東京23区の中で最も面積が大きいのは61.86㎢の大田区で、58.05㎢の世田谷区、53.25㎢の足立区と続く。

 これらと比べても、18.22㎢の新宿区はかなり狭く感じられる。

 しかし、日本一の繁華街を持つこの街が案外広いということを、元Jリーガーの岩舘直は身をもって知っている。

 J2の水戸ホーリーホックに2年半、J1の浦和レッズに5年半在籍したGKの岩舘は現在、クリアソン新宿という社会人チームでプレーし、運営会社である株式会社Criacao(クリアソン)で働いている。

元Jリーガーが自転車で飛び込み営業!?

 社内での所属は地域共創室。岩舘にとって大事な仕事のひとつが、新宿におけるクラブの認知度を上げるためのポスター掲示の依頼だ。

「区内全域を歩き回ったり、自転車に乗って出かけたり。(新宿御苑のそばにある)事務所の周辺や(歌舞伎町や新宿三丁目などの)つながりのある繁華街は別の人間に任せて、僕は遠くのエリアや新規のお店を攻めることが多いですね」

 クリアソン新宿の存在をまったく知らなかったり、サッカーやスポーツに興味がなかったりする人に、チームや会社の取り組みを理解してもらうのは簡単なことではない。すべての店員が外国籍で、コミュニケーション自体に四苦八苦したこともある。

「やっぱり飛び込みは緊張しますよ。気まずさみたいなものもあります。そういう意味では、だいぶ度胸がついたというか(笑)」

 自転車で新宿の街を駆け回るようになるなんて、ほんの数年前まで想像すらしなかった。

 ところが今は、自身の所属するサッカーチームの認知度が高まり、応援してくれる人が増え、さらには、クラブや会社の取り組みが理解されていく――そういった日々に、この上ない幸せとやりがいを感じるようになったのだから、人生はわからない。

「水戸の頃もレッズでも、イベントには参加させてもらっていました。ただ、それはクラブの方々が準備してくれたものだし、来てくれるのも、僕らを応援してくれているファン・サポーターの方々。選手は受け身というか。でも、今は知ってもらうところから始まって、願わくば好きになってもらいたい。友だちになるとか、『地元の若者がサッカーやってるから、おじさん、おばさん、応援しに来てください!』っていう感覚ですね」

 地域の人々との生の交流が、岩舘の意識を変えた。

 岩舘は「そうそう」と続けて、表情を輝かせる。

「今回のJFL昇格をきっかけに、明らかに認知度が上がったんです。『優勝したんでしょ』とか、『なんか上がったらしいね』とか、言ってもらえることが増えて……」

【次ページ】 当時、関東1部のクリアソン新宿に加入

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