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北京五輪、今だから書ける「顔色が悪かった」高木美帆(27歳)…オランダ人コーチの“復帰”で笑顔に「ヨハンの存在の大きさを感じた」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/02/25 17:04
最終種目の1000mで個人初の金メダルを獲得した高木美帆。日本の女子アスリート史上初となる1大会4個のメダルを手にした
高木は3000mの2日後の2月7日にあった女子1500mでは、平昌五輪と同じ銀メダルに輝いた。世界の2番である。誇らしい結果だ。しかし、周囲がいくらそう思って称えても、高木の心中で渦巻いていたのはやはりモヤモヤした思いだった。レース後は悄然として肩を落としていた。
デビットHCとは1500mのレース前にオンラインでミーティングがあり、このように言われていたという。
「滑りや調子が悪いわけではないから、あとは気持ちを強く持って1500mに行くだけだ」
励ましを受けてのレースだった。けれども思い描いたような結果を得るまでには至らなかった。
「強い気持ちを持つことを心がけてはいたのですが。この2日間の中でギリギリまで迷いというか、色んな気持ちを抱えていたのも事実だと思います」
その言葉を裏付けるように、1500mのスタート位置につく直前には、リンクの内埒で目を瞑って集中している時につま先が縁に当たってしまい、あわや転びそうになる珍しい場面もあった。
もちろん、メダリスト会見ではこの種目で3度目の金メダルを手にしたイレイン・ブスト(オランダ)を素直に褒め称えた。高木の人間性の素晴らしさだ。その横で、高木のスケートへ懸ける思いの強さを4年間を通じて肌で感じていたであろうブストは、高木がいかにすぐれた選手であるかを自らすすんで説明し、最後はポケットからミニサイズのスニッカーズを取り出して高木にも渡し、2人で仲良く頬張りながら会見場を去っていった。高木の顔にやっと少しだけ笑みが浮かんでいた。
「ヨハンの存在の大きさをあらためて感じた」
1500mの試合から6日が過ぎた2月13日。女子500mのレースに向けて最終調整を行う高木の横に、開幕後初めてリンクに姿を現したデビットHCがいた。待望の復帰だった。
思い返すと、前日の12日にあった女子チームパシュート1回戦のあたりから高木の表情に明るさが戻りつつあり、チームパシュート全体を見ても活気を取り戻している兆しが感じられていた。実際に、チームパシュート1回戦で日本は五輪新記録をマーク(その後決勝でカナダがさらに更新)し、全体の1位のタイムで準決勝に進んでいた。