プロサッカー選手のステージを降りて、次のステージへ。

　指導者に対する関心を高めていたとはいえ、愛着のある松本山雅で仕事をすることはあくまで近い将来の目標でしかなかった。だがサンプロアルウィンで試合を直に観て、特別な思いを持つクラブに帰るのは今すぐだと考えをあらためた。

　サポーターとチームの距離を近づけなければ、松本山雅が松本山雅ではなくなってしまう。

　大人も子供もおじいちゃんもおばあちゃんもスタジアムに集い、緑一色となってピッチもスタンドも一体となるのがここの何よりの強み。練習場を転々としていた時代、車に隠れて着替えているとサポーターと出くわしてそこで挨拶を交わすのは見慣れた光景だった。

サポーターが「ごめんね、勝たせてあげられなくて」

「試合に勝てなくてオフ明けに練習場に行くと、サポーターの人が寄ってきて『ごめんね、勝たせてあげられなくて』って言うんですよ。普通は逆じゃないですか、選手のほうが『勝てなくてごめんなさい』なのに……。うちのクラブはサポーターがJ1レベルで、チームがサポーターを追いかけていると思うんです。

　試合前にスタンドを見渡すと“やっぱ、凄いな”って思いますよ。サポーターの人たちが目をキラキラさせているんです。“俺たち、やってやろうぜ”っていう目で。それを感じるだけで正直テンションが上がる。ここまでサポーターと一緒になって幸せな気持ちでサッカーできるチームなんて、ほかにはないんじゃないですかね」

©︎J.LEAGUE

　クラブとサポーターの歴史を知る飯田だからこそ、クラブから一度離れた立場だからこそ、距離感の微妙な変化をすぐに感じ取ることができたのかもしれない。

　サポーターの声を吸い上げてクラブに届ける。チームにも届ける。逆にチームの思いをサポーター側に伝えることもできる。

　松本山雅の今季のスローガンは「One Soul 原点回起」に決まった。戦い抜く、走り抜く、あきらめないという山雅本来の持ち味は、サポーターの後押しなくしては成立しない。

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