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《師弟物語》小林陵侑が破った“葛西紀明のライバルたち”…NH50年ぶり金→師匠の男泣きに「まじっすか?」
posted2022/02/07 17:02
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JMPA
北京五輪スキージャンプ男子の個人ノーマルヒル(NH)で金メダルに輝いた日本のエース小林陵侑(土屋ホーム)。不利な追い風の中で1本目104.5メートルの大ジャンプを飛んで別次元の強さでトップに立つと、同じく追い風の2回目は99.5メートル。1回目の貯金にものをいわせ、合計275.0点で初の五輪頂点に輝いた。無双だった。
ジャンプ台の下で歓喜を爆発させた小林の目線の先には“レジェンド師匠”の姿があった。所属の土屋ホームで選手兼任監督も務める葛西紀明がテレビ局の解説の仕事で現地入りしていたのだ。
葛西「涙がクッときて。やりやがったなと」
高校時代、輝かしい成績を残していたわけではない原石の才能を見いだし、同じチームに勧誘し、五輪8大会出場で培ってきた経験をシェアして磨き上げた。
その師匠を何度も男泣きさせた。一度目は1本目の大ジャンプの直後。取材エリアで待ち構えた葛西は、小林が決勝前のトライアルラウンドを回避したことについて、「トライアル、どうしたの?」と聞くと、「ノリさん戦法です」という答えが返ってきた。
「もう、その時点で涙がクッときて。やりやがったなと。そういうふうに慕ってくれてうれしいなと」
報道陣を前に状況を説明しながら、葛西は目を潤ませていた。
トライアル回避は“葛西スタイル”
ジャンプでは頭から足のつま先、手の指先まで、すべての神経を研ぎ澄まして飛ぶ。練習で1日10本飛べばもうクタクタになるほど消耗が激しい。葛西は40歳を過ぎて迎えた2014年ソチ五輪シーズンの頃から、ワールドカップ(W杯)で総合得点の上位に与えられる予選免除の権利を生かして、予選や本戦直前のトライアルを回避し、本番のジャンプにすべてのエネルギーを注ぎ込むやり方をしてきた。トライアルを回避することでできた時間は、良いイメージをすり込むために使う。当時から葛西は「飛ばないのが葛西スタイルだとみんなが言っていますね」と話していた。