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「ひとりでできることには限界がある」高梨沙羅29歳が痛感した“道具との向き合い方”「自分の周りに膜みたいなものが…それを破れた時が変われる瞬間」
posted2025/12/01 17:01
29歳にして、ジャンプの第一人者としてミラノ・コルティナ五輪に挑む高梨沙羅
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Asami Enomoto
発売中のNumber1132号に掲載の[五輪シーズン開幕]高梨沙羅「『限界』のその先を求めて」より内容を一部抜粋してお届けします。
シーズン前には神社にお参り
古典的で少し意外な気もするが、シーズンが始まる前、高梨沙羅はいつも神社にお参りにいくことにしている。
スキージャンプで神頼みといえば風。奈良県に風の神様を祀った神社があり、高梨自身か、都合がつかないときには母親が、毎年足を運んできた。
「もう何年くらいだろう。10年くらいは経つと思います。今年は時間がなくて母が行ってくれる予定なので、私はこないだ北海道神宮にお参りに行ってきました。札幌にいる間に雪も積もって、冬が来たなあって。遠征の荷造りに時間はかかりません。もうスーツケースがタンスみたいなものなので、そこに冬物を入れていくだけなんです」
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いつも通りのシーズンの始まり。ただ、当たり前でないことを積み重ねてきたシーズンの始まりでもある。
「ひとりでできることには限界があると痛感」
ひとつの転換点は3年前の北京五輪にあった。スーツの規定違反で失格となった混合団体がクローズアップされることが多いが、個人ノーマルヒルでの4位という結果にも高梨は思うところがあった。
「その前のオリンピックから4年かけてジャンプを一から作り直してきて、それを出し切れた感はありました。でもメダルには届かなかった。どんなジャンプを目指して、どんな練習をするのか。周りの意見よりも、自分の感覚と意志で作ってきたと言えるジャンプだった。それだけに、ひとりでできることには限界があるなと痛感させられました」
混合団体の苦い経験で進退まで考えた時期を経て、高梨は「支え続けてくれた人への恩返しのために」と再び五輪を目指す決意を固める。
しかしこの3シーズン、W杯では優勝がなく、かつては常連だった表彰台にもなかなか手が届かなくなっている。今夏のサマーグランプリシリーズでは丸山希が急成長して総合優勝。日本女子は計5人が表彰台に上がったにもかかわらず、高梨は混合団体の優勝をのぞけば個人では4位が最高順位だった。一方で総合順位ならば3位。安定してトップ10には入れても、突き抜けるようなジャンプが見せられていない現状がある。

