オリンピックへの道BACK NUMBER
「私の頑張りは足りなかったんだと思います」“身長152cm”の高梨沙羅が世界と戦うために「すべてをゼロから作り変えた」挑戦の軌跡
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJMPA
posted2022/02/06 17:03
5日のスキージャンプ女子ノーマルヒルで4位となった高梨沙羅。個人として2大会連続のメダル獲得はならなかった
おそらくはいくつかの要因がある。試合前日、風などジャンプ台の状況に対し、確信を持てなくなっていた中での試合であったことがひとつ。そして、「追う立場」にあったことがひとつ。
「追う立場」でも方向性は分かれる。失うものはないと思いきりよく迎える姿勢もそこから生まれる。ただ、高梨の場合、成績からすれば追う立場ではあっても、ただ追うのではなく、得ていないものをなんとしてもつかむための大会であった。そこでは、「自分で自分を追う立場」だった。
体格差を補うため、すべてをゼロから作り変えた
加えて、些細なミスも許されない立ち位置でもあった。
以前、高梨が圧倒的な強さを見せてきた頃から、女子ジャンプの世界は大きく様変わりした。2014年のソチ五輪で正式に採用されて以降、ジャンプの盛んな欧州の国々で女子の強化が本格化した。やがてそれらの国々から選手が台頭し、活躍するようになっていった。
クラマーは男子の強豪国オーストリアの選手であり、また今シーズンは出場していないが平昌五輪で金メダルを獲得したマーレン・ルンビは男子で数々のメダリストを輩出しているノルウェーの選手だ。しかもクラマーは170cm、ルンビは173cmと高身長を誇る。
体重との兼ね合いもあるが、152cmの高梨より長いスキー板を使用でき、何よりも身長とパワーの違いから助走スピードでも勝る選手たちと勝負するには、より精度を高めた技術が必要だった。毎シーズン浮かび上がる課題に、高梨はこつこつと取り組んできた。
それでも追いつかない。だから「スタートから助走も、空中姿勢も、すべて」をゼロから作り変えてきた。長年培ってきた技術を捨てて、新たに組み立てるのは簡単ではない。それを決断すること自体、容易なことではない。それでも、世界のトップで戦うために、覚悟を決めて技術の一新を図った。