Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
小平奈緒19歳が「下手だね。修正しないと世界はないよ」と言われた日… 清水宏保と共通する“究極の滑りへの探求心”とは
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byRyosuke Menju/JMPA / Kazuaki Nishiyama/JMPA
posted2022/02/17 11:01
(左)2018 PyeongChang 五輪レコードを塗り替える 36秒94と、低地リンクの常識を打ち破る記録を叩き出した。(右)1998 Nagano 長野五輪ではスケート競技で日本史上初の金メダルを獲得する快挙を成し遂げた
「世界記録の更新とは、人間の限界をひとつ超えること」
「動きが変わったと感じたのもそうですが、インタビューの言葉も変わりましたよね。何かを追い求めている様子があって、その言葉にもう1個奥の意味があるというのを匂わせるようになった。ああ、技術面で気づいている部分があるんだろうなと思いました。アスリートは技術と成績が伸びるに連れて、発する言葉が変わっていくものなんです」
平昌五輪で金メダルを獲得した小平は、昨シーズンから次のターゲットとして500mの世界記録樹立を公言してきた。それこそが究極の目標であり、滑りである。
「究極の滑りがどういうものなのかを言葉で表現するのは難しいのですが、それができた時は、おそらく誰も見たことのない景色、誰も実感したことのない空間を自分のものにできるのかなと思っています」
平昌五輪で金メダルに輝いてから1年。小平が昨季のラストレースに選んだのは、3月のカルガリーでの大会だった。そこでは男子のレースにも参加。非公認ながら自己ベストを上回る36秒39を出した。李相花(韓国)が持つ36秒36の世界記録にあと0秒03まで迫るタイムである。
「世界記録の更新とは、人間の限界をひとつ超えることかなと思います。体感としては残念ながら共有できないものですが、生きているエネルギーを感じる瞬間なのかなと思います」
「清水さんや私のやってきたことが次の時代につながると」
20年前、人間の限界を超えるような鍛錬を重ねる清水とタッグを組み、男子の33秒台を予見した結城の目には今、女子の35秒台も見えている。それは、科学を駆使して組み立てた理論に基づく技術、そして清水と同様に絶対に負けない体を作り上げている小平という選手がいるからでもある。
清水は小平に「35秒台という次の大台に乗って、歴史を作ってもらいたい」とエールを送り、しみじみと言葉を継いだ。
「最近よく五輪のレガシーと言われますが、小平さんのように五輪を見た記憶が残っている世代が、五輪への思い、憧れ、感動を自分の中で再現していくのが、長野五輪を経験した僕らとしてはうれしいのです。それは東京五輪でも起こること。その繰り返しがレガシーなのだと思います」
小平も言う。
「清水さんや私のやってきたことが次の時代につながると、世の中楽しくなるんじゃないかな」
究極の滑りの向こうに広がるのは、万華鏡のようなワクワクする未来だ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。