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格闘技PRESSBACK NUMBER
「首の骨が折れたのでは」カメラマン戦慄の強烈スラムから大逆転…“柔術マジシャン”ノゲイラがボブ・サップ戦で見せた不屈の闘志
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2022/02/03 11:01
ボブ・サップの怪力で持ち上げられ、強烈なスラムを食らうアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ。ダメージは甚大だったが、2ラウンドに劇的な一本勝ちを収めた
「ススム、お前までそんなこと言うのか!」
2011年、私はリオデジャネイロにあるノゲイラの道場を訪ね、サップ戦について話をした。「ミノ(ノゲイラの愛称)、あの試合は凄かった。よくぞ諦めずに我慢して最後に極めたね。私はもうダメだと何度も思ったけど」と言うと、ノゲイラは大笑いしながらこう答えた。
「ススム、お前までそんなこと言うのか、ひどい奴だ! 諦めることなんてしない。どんなことでも、いつでもそうだよ。だって俺は小さい頃に交通事故で、一度は死んだようなものだからね。試合にはレフェリーがいて、仲間もセコンドとしてそばにいてくれる。自分は試合に集中して、勝つことだけを考えているのさ」
ノゲイラは11歳の時にトラックに轢かれた。肝臓と肺に大きなダメージを受け、足も複雑骨折し、4日間も意識不明の重体だった。両親はドクターから、息子が生命の危機に瀕していると伝えられた。たとえ一命をとりとめたとしても、歩くことは不可能だとも宣告された。しかし1年間に及ぶ懸命のリハビリを経て、普通の生活ができるようになったという。
そんな壮絶な過去を持つノゲイラにとっては、試合で迎えるピンチなど問題ではないのかもしれない。感心する私に向かって、彼は言った。
「もう今日の仕事は終わりかな。何が食べたい? 私は日本で六本木が一番好きな街で、お寿司が大好き。リオの寿司屋はどう? エッ……ブラジルに着いたばかりで体調が悪いって? ススム、人生を楽しまないと」
笑いながら私の肩を何度も叩いてくるノゲイラは、我々がイメージする典型的なブラジル人である。感情表現がはっきりしていて、フレンドリーでいつも明るく、笑顔を絶やすことがない。そんな人柄だからこそ、皆に愛される。また彼の名誉のために書かせてもらうが、ノゲイラが本気で怒った姿を私は見たことがない。
そう、2004年8月15日のあの試合のときでさえも、彼は起きたことを淡々と受け止めていた。<後編へ続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。