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[音響デザイナー・矢野桂一の楽曲解説]音楽との融合への2つのアプローチ
posted2022/02/03 07:02
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
AFLO
全日本選手権で初披露された『序奏とロンド・カプリチオーソ』、そして昨季からさらに技術・表現をアップデートした『天と地と』。幾多のプログラムを手掛けた編曲者が、2曲の異質な魅力を語った。
羽生結弦をはじめ数々のスケーターのプログラムの編曲や、試合会場の音響を担当してきた矢野桂一氏に、今季のショートプログラムについて羽生から連絡があったのは、8月のことだった。
「羽生選手は7月に会った時に『スペシャルなものが今作られています』と語っていたのですが、8月に清塚信也さんが演奏した『序奏とロンド・カプリチオーソ』が送られてきました。そして『プログラムにするには、鳴り始めの音が小さすぎるでしょうか』と尋ねられました。実際に聞いてみると冒頭はすごく小さな音で、原曲の曲想どおりピアニッシモでの演奏でした」
原曲の出だしは、“ピアニッシモ=極めて弱く”弾くこととされており、演者にとっては当然の演奏だった。
「日本の試合で僕が音響に入っていれば、会場で音量を調整することは出来ますが、海外だと何もしてもらえず聞こえづらいかもと思いました。『序奏』ではあるけれど、メゾピアノかピアノくらいで弾き始めてもらったらどうだろうと提案しました」
『SEIMEI』や『天と地と』では編集に全面的に関わった矢野氏だが、この曲に関しては、清塚氏の再演奏を提案した。
「僕が修正して冒頭の音を大きくした音源に変えることは簡単です。でも清塚さんという演奏者にとっては、力加減ひとつで曲のニュアンスが変わります。2人が話し合って曲想を理解する過程を踏んでいますから、僕は触らず、弾き直してもらったほうがよいと思ったんです」