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「必ず4回転アクセルを決めるんだ」羽生結弦が『ドリーム・オン・アイス』で見せた“新しい跳び方”は何を意味するか?《北京五輪シーズン》
posted2021/08/30 06:01
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Joe Kobashi
羽生結弦のトリプルアクセルに変化があった。北京五輪シーズンの皮切りともなる、7月に行われたアイスショー「ドリーム・オン・アイス」。そこで羽生が披露したトリプルアクセルは、今まで得意としてきた軽やかで空気感のあるアクセルではなく、高さと回転速度を重視した激しいアクセル。それは、今季の決意を背中で物語るジャンプだった。
オープニングでは、いつも通りの鮮やかなトリプルアクセルを成功。
「今季は自分の最大の夢に向かって全力で努力していきます」
そうコメントして演じた『マスカレイド』では一転、力で跳ぶトリプルアクセルを組み込んだ。むしろ回転させる力が強すぎて空中での回転軸が少し斜めになり、そのまま回転を緩めないうちに着氷。失敗したのではなく、あえて意図的に新しい跳び方を披露してくれたように感じた。
トリプルアクセルだけの評価で考えれば、これまでのように無駄な力がなく飛距離を出す跳び方は、ジャッジの評価で「+5」を連発できる。しかしあえて自分の持ち味を変えてでも、4回転半まわすためにパワーと高さ重視のアクセルへ変化させてやる、という気迫が伝わってきた。
「必ずこのシーズンで4回転アクセルを決めるんだ」
演技後にはこうも話した。
「(4月の)スターズ・オン・アイスが終わって、昨季頑張ってきた身体のダメージをいたわりつつ、4回転アクセルに向けて、アクセルの基礎の練習だったり、一から作り直す作業を出来たと思います。これからシーズンインに向けて、本格的に4回転アクセルの練習をしたいです」
その予兆は、4月の国別対抗戦の練習中に見せた4回転アクセルでも感じられた。左足を踏み込んだあと、右肩をかなり強く後ろに引き、限界まで上半身を後ろに留める。踏み切った真上に回転軸を作り、最大限の高さを出そうとするフォームだった。
その時には「4回転半を練習してきたからこそ、トリプルアクセルとの違いが分かってきた」と説明した。11月のNHK杯とロシア杯に「試合で決める機会が少しでも多ければ」とエントリー。「必ずこのシーズンで4回転アクセルを決めるんだという強い意志があります」という。
世界最高品質のアクセルの跳び方を変えてまで挑む、4回転半。人類が見たことのない景色に向かって、高く、速く、跳んでいく。