「バスケの面白さっていうのをどんどん感じてくる」

　田臥が言う「補う」とは思考だ。肉体が生み出す力は有限かもしれないが、イマジネーションは無限だ。頭と体がどれだけリンクできているか？　誤差の穴埋めができなければ未熟さを痛感する。そんな日々を過ごす。

「そればっかりです」

　捉えようによってはネガティブな話題にもかかわらず、田臥の表情は明るい。

「本当に毎日の練習、毎試合、『あの場面ではポジショニングの取り方はこうだった』『あの瞬間はオフェンスの組み立てはこうしないといけなかった』とか、その繰り返しです。日々の積み重ねによって、『自分の思い描くプレーにどうたどり着けるのか？』って想像するだけで、練習から楽しくて、刺激的で。歳を取れば取るほどありがたみというか、重みというか、バスケの面白さっていうのをどんどん感じてくるというか」

　繰り返すが、今シーズンの田臥がコートに立っていた平均時間は4分39秒だ。最も短いプレー時間は2分32秒である。

　田臥は「長い時間、コートに立てていない」自分を理解している。だが、そこに至るまでの過程は、毎試合30分近くプレーするチームメイトと同等……いや、それ以上だ。

　そんなプロフェッショナルの塊のような精神に触れ、ひとりのアスリートを思い出した。

　プロ野球の最高峰メジャーリーグで、数々の大記録を打ち立てたイチローである。

©Takuya Sugiyama

イチローと重なる“プロ意識”

　44歳で迎えた18年シーズン。プレーした期間は開幕から約1カ月間のみで、出場枠の40人から外された。以後、シアトル・マリナーズの会長付特別補佐となったイチローはチームに同行し、残りのシーズンは試合に出ていた時と同じルーティンを貫いた。19年の引退会見で、この期間について「ささやかな誇りを生んだ日々。どの記録よりも、自分のなかではほんの少しだけ誇りを持てた」と、自らの歩みを噛みしめていた。

　日米通算4367安打。プロ野球の歴史上、世界で最もヒットを重ねた男は、スポットライトを浴びていた頃より、日の当たらぬ場所で泥臭く雌伏の時を過ごしていた自分を誇った。そんなイチローと田臥が交差した気がしたのだ。

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