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“歴代最高の日本人フリーキッカー”中村俊輔が語った「セットプレーの極意」とは?「一番狙っていたのはフクさん(福西崇史)」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/01/26 17:00
観客6万人を動員した、南アW杯アジア最終予選カタール戦にて。2009年6月10日、日産スタジアム
セットプレーのなかでも直接FKからのゴールはかなり減っている気がする。キッカーが少なくなったことも理由にあるだろうが、VARの導入も無関係ではないように思う。
プレーを極力止めないため、ちょっと押されたくらいではペナルティーエリア外のファウルを取らなくなった。ファウルが少なくなればFKを蹴る機会も減ってしまうのだから当然だ。
とはいえ、流れからゴールを挙げても、セットプレーからでも同じ1点であることに変わりはない。
その認識に立つのであれば、いいキッカーのいるチームなら止まったボール(セットプレー)を軽視するとは考えにくい。先ほど名前を挙げたサロモンソンもそうだが、コンサドーレ札幌の福森(晃斗)くん、セレッソ大阪の原川(力)くん、藤田(直之)くんたちも非常にいいキックを持っていて、明確にチームの武器になっている。
ただキッカーはつくろうと思ってもつくれない。自分も誰かから教わったわけじゃない。フォワードがポストプレーを、ディフェンダーがヘディングを磨くのと同じように、「キック力を伸ばしたい」と自分でこだわって打ち込んでいけるかどうか。
キッカーが少なくなってきたとはいえ、チームの力になることを見せていけば、傾向はまた変わってくる可能性がある。
其の二 中村俊輔のセットプレーのこだわり
中村は日本代表のキッカーとしてセットプレーから数多くの得点を生み出してきた。華麗な直接FKでのゴールのみならず、味方に合わせるキックからアシストしたシーンも多い。
チームとしてセットプレーの強みを活かして優勝までたどり着いたのが'04年に中国で開催されたアジアカップであった。
グループリーグのタイ戦でFKを直接決めていた彼は準々決勝・ヨルダン戦、準決勝・バーレーン戦、決勝・中国戦と3試合連続でセットプレーからゴールを演出している。なぜ「強み」とできたのか。当時を振り返りつつ、その秘訣を明かした。
キッカーとして心掛けてきたのは、このチームにとって「セットプレーは武器なんだ」という雰囲気をつくり出すこと。どっちに勝負が転ぶか分からない五分五分の試合ならば、なおさら大事になってくる。そのためには、日ごろの練習からチームメイトと信頼関係を構築しておく必要がある。
あのアジアカップのヨルダン戦、自分のFKがGKに弾かれたところを押し込んだのがタカさん(鈴木隆行)。練習からタカさんにボールを送る際、自分のイメージに合う動きをしてもらったら「ナイスです」と一言伝えることを忘れないようにしていた。そうするとタカさんも、そのボールをより意識するようになる。タカさんのことでもう一つ言えば、ゴール前でファウルをよくもらってくれた。怖いプレーをするから相手もファウルで止めざるを得ない。これも日本にとっては大きかった。