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格闘技PRESSBACK NUMBER
「メイウェザーが本気になった…」“大晦日の格闘技を撮り続けて20年”名物フォトグラファーが語る「リングの空気が変わった瞬間」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/12/31 11:05
フロイド・メイウェザー・ジュニアと那須川天心による世紀の対決が行われた2018年の大晦日。カウンターが顔をかすめたことで表情が一変したメイウェザーは、無敗の“神童”から3度のダウンを奪った
メイウェザーを「本気」にさせたカウンター
試合が実現するまでに、相当な紆余曲折があったことは多くの読者がご承知だと思う。最終的にこの試合は、スペシャルエキシビジョン(ボクシングルールの非公式戦)という形式で行われた。試合当日のリングサイド、私はリングで対峙した両者の体格差に改めて愕然とした。体重差は10キロ程度と予想されたが、それ以上に身体の骨格や筋量が明らかに違うのだ。天心もいつもと違い、かなり緊張した表情をしていた。
一方のメイウェザーは余裕綽々で、対戦相手のことなど眼中にないようにみえる。「メイウェザーは集中できていないぞ。これは天心にもチャンスがあるかもしれない」と私は思った。ゴングが鳴り、メイウェザーは笑みを浮かべながら挑発的な動きを見せる。天心は素早い動きでパンチを避けながらカウンターを放つと、メイウェザーの顔面をかすめた。
そのときである。メイウェザーの顔色が瞬く間に変わり、一瞬でリングに緊張が走った。それまでは、天心を相手にどこかおちゃらけていたメイウェザーだったが、一気にスイッチが入り本気モードになる。スピード、パワー、テクニック、ボクシングスキルのすべてに勝るメイウェザーが、天心を倒すにはそれほどの時間を必要としなかった。
ボクシングにおいて体重差はきわめて重要なものであり、たとえわずかな違いでもパワーには絶対的な差がある。私はその違いを、現実のものとして目の当たりにすることになった。それは私だけでなく、天心のセコンドも同じ感覚だったと思う。体重差と経験の違い――ボクシングとはかくも重厚な格闘技なのか、と認識させられた。
また、私はパンチひとつでメイウェザーを本気にさせた天心はあらためて凄いと思った。それ以上に、この試合で彼の今後の進路が決まったような気がする。
ボクシングで失ったものは、ボクシングでしか取り返すことができないのだ。