この別れを、大河内は新庄との日々を綴った自身の著書『人を輝かせる覚悟』（光文社）の中で「お互いにたくさん削れて別れた」という表現をしている。一見、マイナスな表現にも聞こえる言葉だが、大河内の意図する意味は違う。

「無垢な二人がいて。その時は隕石みたいにゴツゴツだし、くすんでるし。だけどお互いぶつかって、お互いだけじゃなくて、色々な寄ってくる人、周りに集まってくる人たちともぶつかって、修行させてもらって……。傷ついたり、ハプニングのたびに角が削れてきて、最終的につるつるになって輝いていくわけですよね。だから削れていったというのは、大変なことがあって、削れて輝いた私たちがいたということなんです。

　何もなかったらたぶん輝けなかったと思うんですよね。私たちは出会うべき時に出会い、別れるべき時に別れたと。神様の計画は正解です」

　ただ――。大河内は、少し遠くを見るように言った。

「野球選手じゃなかったら、別れていなかったかも」

「今振り返ると、もっと（新庄さんとの結婚生活を）楽しめばよかったなって思うんです。その時はとにかく必死で、楽しむ余裕は作れなかった。人から『新庄さんの奥さんになれるなんて羨ましい』と言われたこともあったんですけど、何が羨ましいのかさっぱりわからなかったんです。今は、言わんとしていることはわかります」

　がむしゃらで、必死に努力してきた15年のパートナー生活。楽しい瞬間はあったのだろうか。

新庄とともに兵庫県西宮市役所へ婚姻届を提出する大河内志保　©Sankei Shinbun

「この長い15年の間で、1年目だけは恋人同士を味わった気がします。使命感とかはまだなかったので、ただ純粋に遊びに行ったりご飯食べたり。先のことは何も考えずに、今が楽しい、って思えたのは1年だけでした」。アスリートの妻として支えた、その後の苦悩を感じさせる言葉だ。

　大河内は新庄を支えた日々について「国民的スポーツ選手のアシスタントをさせてもらっている」と表現した（#1）。必死だったと振り返る結婚生活には常に、アスリートを支える責任感と重圧がのしかかっていたのだ。

「あれ？　これちょっと責任重大かもって、ある時に気づいてしまったんですよね。私の考えも古いんですけど、この人についてるということは、傍にいる私が一番選手としての運命を左右しちゃうかもしれない、と思ったんです。そこで自分の立場を自覚して責任感が生まれてから、楽しくはなかったかな。

　彼からしてもそんな私でいてほしくはなかったと思うんです。たぶん野球選手じゃなかったら、今でも別れていなかったかもしれない。私が責任に気づいた瞬間に、出会った頃との役割が変わってしまったから」

「当時の自分はあまり好きじゃないんです」

　その上で、当時の自分を「不十分」と言い切る。

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