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メルケル元首相とサッカードイツ代表の幸せな16年間…“お堅い”イメージを一変させたW杯の絶叫「あなたがとても恋しくなる」
text by
円賀貴子Takako Maruga
photograph byGetty Images
posted2021/12/16 17:00
16年に及ぶ長期政権の任務を終えたメルケル元首相。スタジアムで声援を送るなど、サッカーとの関わりも深かった
ドイツでは政権のトップが「プロのサッカー選手になれなかったから、政治家になった」的な言い方をすれば、国民に受ける。メルケルさん(CDU、キリスト教民主同盟)の前任者であるゲルハルト・シュレーダー氏(SPD、社会民主党。任期は1998−2005年)は、ニーダーザクセン州首相時代から、州都ハノーファーのクラブ、ハノーファー96のスタジアムで試合観戦する様子や、会長や監督と談笑する様子がよくテレビに映っていた。少年時代は生まれ育った村のクラブ、TuSタレのセンターフォワードだったというから、そのサッカー愛は単なる政治的アピールではなかったようである。
「メルケルさんってこんな人だっけ?」
一方、首相就任時のメルケルさんの場合、旧東ドイツで過ごした少女時代にサッカーをしていたとか、特定のクラブを贔屓にしているという話は聞いたことがなかった。かつて旧東ドイツのチームとして唯一1部ブンデスリーガで健闘していた旧東ドイツのクラブ、エネルギー・コットブス(現在は4部リーグ)の名誉会員になっているが、これはメルケルさんの選挙区がコットブスのあるブランデンブルク州にあって、クラブの発展に貢献したという理由で与えられたもので、長年クラブ会員だったわけではない。そしてメルケルさんはいつ見ても、いたって冷静沈着だったし、少し堅いイメージがあった。
だから、ドイツ代表のゴールが決まる瞬間、思わず飛び上がり、腕を空に向かって突き上げて「きゃーっ」と叫ぶメルケルさんの姿を見て、印象が大きく変わった。そして次の瞬間、自分の隣に相手国の首相が座っていることに気づき、「あ、しまった」とでもいうかのように、掲げた両腕を下ろしてそそくさと着席し、何事もなかったかのように澄ました顔をしている。この様子を見ると、毎回笑わずにいられなかった。
筆者のように「メルケルさんってこんな人だっけ?」「なんだかかわいい」と思った人も多かったのではないだろうか。今では、シュレーダー氏以上にメルケルさんとサッカーとの結びつきが強い印象がある。