欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
今季のブンデスで日本人最多スコアラーに 急成長中の奥川雅也が「幻の街」に希望をもたらす
posted2021/12/18 11:02
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
奥川雅也が所属するブンデスリーガ1部、ビーレフェルトの街には不思議な噂がある。
幻の街、ビーレフェルト――。
「いかにもドイツっぽい名前だけど、ビーレフェルトという街は実在しないんだ。そんな街があると信じさせようとする、巨大な陰謀がある」
1990年代の半ば、そんな噂がインターネットでドイツ中を駆け巡った。
「実は宇宙船の隠し場所なんだ」
「アトランティス大陸への入り口がある」
「CIAだけが真実を知っている」
陰謀論は、尾ひれをつけて無限に広がり、いまなお語り継がれている。
観光客が訪れるほどの魅力はない
それは単なる都市伝説で、よくあるジョークのひとつなのだが、ビーレフェルトという街の立ち位置が、噂の信憑性を高め、多くの人々の興味を誘ったことは間違いない。
人口33万人。地方の中心都市と言える程度の規模で、街はそれなりに拓けている。特急電車が止まるし、近くには高速道路も走っている。アクセスは悪くない。
ただ、これといった特徴や名産品はなく、観光客が訪れるほどの魅力はない。要するに「パッとしない街」なのだ。
そのため、こんなやり取りが定番となっている。
「ビーレフェルトから来た人を知っていますか?」
「ビーレフェルトに行ったことがありますか?」
「ビーレフェルトに行ったという人を知っていますか?」
この3つの質問に対して、ほとんどの人が「いいえ」と答えるし、誰もが「確かに」と納得する。もし1つでも「はい」と答える人物がいたら、その人物は「やつらの陰謀」に加担している、というわけだ。
団結力を乱す選手は評価されない
幻の街ビーレフェルトにおいて、おそらく唯一のトレードマークと言えるのがプロサッカークラブ、アルミニア・ビーレフェルトだ。あるいはアイデンティティそのものと言ってもいいかもしれない。
2017年に約35億円の負債を抱え込み、破産やむなしの大ピンチを迎えながらも何とか立て直すことができたのは、多くの地元企業が救済のための募金に協力したからだ。
世間的には「パッとしない街」のクラブだが、だからこそ、どこにも負けない団結力があり、それを乱す選手はどれだけうまくても評価されない。
在籍2年目の奥川は、そんなビーレフェルトで絶対的な存在になりつつある。