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メルケル元首相とサッカードイツ代表の幸せな16年間…“お堅い”イメージを一変させたW杯の絶叫「あなたがとても恋しくなる」 

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円賀貴子

円賀貴子Takako Maruga

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photograph byGetty Images

posted2021/12/16 17:00

メルケル元首相とサッカードイツ代表の幸せな16年間…“お堅い”イメージを一変させたW杯の絶叫「あなたがとても恋しくなる」<Number Web> photograph by Getty Images

16年に及ぶ長期政権の任務を終えたメルケル元首相。スタジアムで声援を送るなど、サッカーとの関わりも深かった

 ヨアヒム・レーブがドイツ代表監督に就任したのは自国開催のW杯終了後、06年の夏のこと。ユルゲン・クリンスマン監督が退任し、コーチから昇格したのだ。レーブ体制となってからも、メルケルさんとドイツ代表の深いつながりは続いた。

 2012年の欧州選手権ポーランド・ウクライナ大会の時は、バルト海の街グダニスクのチームホテルにドイツ代表チームを訪ねて、選手たちと一緒に食事をしながら談笑している写真がある。ピンク色の壁紙の部屋に置かれた大きなテーブル。白いテーブルクロスの上には前菜らしき皿や飲みかけの水やジュースが載っている。左横にはミロスラフ・クローゼが座り、メルケルさんと共にニコニコしながら、向かい側に座るバスティアン・シュバインシュタイガーの話に聞き入っているという構図だ。メルケルさんは黄緑色のジャケットを着ているが、選手たちはみんなアディダスのジャージ姿で、すっかり打ち解けた雰囲気である。

 シュバインシュタイガーとメルケルさんは特に仲が良かったらしい。のちにシュバインシュタイガーが現役を引退した時や、テニス選手のアンナ・イバノビッチさんと結婚した時、子供が生まれた時にも、携帯電話にメルケル首相から祝福のメッセージが届いたことを自慢していた。2019年には、夫婦揃って首相官邸にメルケルさんを訪ねている。

観戦13試合の勝利は「11」

 メルケルさんはドイツ代表戦を13試合生観戦しているらしいが(ちなみにそのうち11試合はドイツ代表が勝利)、そのハイライトは2014年のブラジルW杯決勝でドイツがアルゼンチンを1−0で下して、1954年、1974年、1990年に続く4度目の優勝を決めた時だろう。メルケルさんは、グループリーグ初戦のポルトガル戦(4−0の勝利)に駆けつけた際に、こう言っていたそうだ。

「決勝に行ったら、もう一度来るわね」

 約束は実現し、決勝の地リオデジャネイロのマラカナン・スタジアムのロッカールームでチームと再会した。首からメダルをかけた選手たちの真ん中に収まって記念撮影。決勝点を決めたマリオ・ゲッツェや、ルーカス・ポドルスキーと撮ったセルフィーも有名になった。

 今から振り返ると、これがレーブ体制のドイツ代表の最も幸せな瞬間だった。それ以降、メルケルさんがドイツ代表の試合で喜んでいる姿を見ることは稀になった。このW杯タイトル獲得をピークに、レーブ監督率いるドイツ代表に陰りが出てきたことにも関係しているだろう。

 2016年の欧州選手権フランス大会は日程上の理由から現地観戦できず、2018年のロシアW杯の際には、大会前にイタリア・南チロル地方で行われた合宿を訪れただけだ。この大会でドイツはまさかのグループリーグ敗退で終わったのだから、ロシアに駆けつける暇もなかった。そして今年、1年遅れで行われた欧州選手権では、コロナ禍のため、チームと“会えた”のはネットでのみだった。

 この大会前、レーブ監督はメルケルさんと食事し、こんな会話をしたことをツァイト誌のインタビューで明かしている。

【次ページ】 「2人とも、辞めるのに良い時だと思っている」

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