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「過ちは消えるものじゃないですが」問題児だった男が口にした“恩返し”…東京五輪世代・邦本宜裕24歳が韓国で勝ち取った信頼
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byJeonbuk Hyundai Motors
posted2021/12/09 11:02
全北現代のリーグ5連覇に貢献し、Kリーグベストイレブン候補にもノミネートされた邦本宜裕
全北現代といえば、日本のサッカーファンにも馴染みがあるはずだ。韓国屈指の強豪クラブで、今季もリーグ1位でシーズンを終えた。しかも、韓国プロサッカー史上初となる5連覇を達成し、リーグ優勝は通算9回と最多。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)も2度制覇しており、今やアジアを代表するクラブと言っていいだろう。
邦本は日本から来た“助っ人”だ。韓国では外国人選手のことを“ヨンビョン(傭兵)”と呼ぶのだが、それだけに結果を求められている立場でもある。
「今年の序盤はケガもあって、コンディションも上がらず、チームに貢献できるプレーがあまりできていなかったんです。少しずつ自分のベストの状態が戻ってきて、チームのためにやれている感じはあります」
かなり謙遜した言い方だが、今季は25試合に出場して4ゴール、5アシスト。しかも、大事な試合で結果を残しているところ、邦本の貢献度の高さが伝わってくる。
ハイライトは11月6日、ホームの全州ワールドカップ競技場で行われた蔚山現代とのリーグ首位同士の決戦だった。“事実上の優勝決定戦”とも言われる大一番は、一進一退の攻防が続き、90分の時点で2-2。このまま終わるかと思ったが、アディショナルタイムに劇的なゴールが生まれる。
94分に左サイドでボールを受けた邦本は、ゴール前に走りこむ選手の動きを見逃さなかった。鋭く正確な左足のクロスにFWイリュチェンコが頭で合わせて3-2で勝利。ベンチもスタジアムに駆け付けたサポーターも優勝したかのように喜びを爆発させていた。
また、引き分け以上で優勝が決まる最終節(12月5日)の済州ユナイテッド戦(2-0)でも、オフサイドラインを抜けるFWへ左サイドから絶妙なスルーパスで貴重な2点目をアシストし、勝利に貢献した。
「クニにボールを回せ!」
瞬時の判断と左足の正確なキック、プレーの質の高さを証明するにはそれで十分だった。与えられたポジションは中盤の左サイドだが、中央での緩急をつけたプレーや精度の高いサイドチェンジ、チャンスがあれば果敢にドリブルで仕掛けてフィニッシュまで持っていくプレーが随所に光った。
今年はチームから信頼されているのをたくさんの場面で実感するようになったという。
「よく『クニにボールを回せ!』と試合中に言ってくれるようになったので、信用されてきたのかなと感じます。その分、活躍しなくちゃいけないプレッシャーもありますけれど、そう言ってくれるのはすごくうれしいですよね」
邦本が韓国で信頼を勝ち取ったのには、もちろんちゃんとした理由がある。
「試合でももちろん日本も激しいんですけれど、体感的には韓国の方がもっと激しいかなと感じます。例えば練習でも危ないファウルもあったりすると、日本ではやめることもありますが、韓国はやめずにガツってくる。そこが一番の違いですね。でも自分にファウルしてきても、全然かわすから大丈夫だよって気持ちでやっています。
もちろん最初、ガツン!って当たられたときは、イラっとしましたけれど、それが今は当たり前になりましたね。一度ファウルで止められると、これは僕の考えですけれど、『ファウルされて止められる選手』の印象になると思っています。それが嫌なので、ファウルされてもすぐに立ち上がりますし、練習からそういう風に取り組んでいます」
かつて“悪童”と呼ばれた過去を持つ人物とは思えないほど、印象はガラリと変わっていた。