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野球クロスロードBACK NUMBER
「メンバーから外してください」楽天ドラ1・吉野創士は監督に直訴した…昌平高2年秋に起きた“事件”〈本人インタビュー〉
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2021/12/05 06:01
ドラフト1位で楽天入団に合意した昌平高・吉野創士(左)と恩師の黒坂洋介監督(右)
彼なりの贖罪だった。ところが、黒坂から一笑され、こう諭された。
「そもそも、その判断が間違ってるんじゃないか。それって、ただ逃げてるだけだろ? こういう時だからこそ中心選手のお前が、調子が悪いなりに前を向いて野球に打ち込む姿勢を見せたり、仲間たちを鼓舞して貢献することが大事なんじゃないか。そういうことを全力でやることで、誰もが認めるレギュラーになれるんじゃないか。だから逃げるな」
吉野の背筋が伸びる。「変わらないと」と顔を上げ、そして、チームに頭を下げた。
弱さを認めた吉野が“つかんだもの”
仲間たちに笑顔が戻る。
「チームのことは俺たちがカバーする。お前は勝利に導くプレーとか、俺たちが盛り上がれるように声を出してくれたりするだけで十分だから。頼むぞ!」
主将の岸をはじめ、吉野が弱さを認めたミーティングに明るさが戻る。地区大会から周囲を覆っていた霧が取り除かれた。
心と技術の開花を目指してきた吉野にとって、「高卒でプロ」という大願を果たすにあたって大きな契機となった。
「監督さんやコーチ、チームメートからもいろんな言葉を貰ったおかげで今の自分がいるんで。それがなかったら、高校3年間ずっと成長できなかったし、中学から変われないままプロにも行けなかったと思います」
「今までになかった自覚が持てるようになった」
涙のドラフトから慌ただしい日々を送る。
プロ野球選手としてスタートを切るための体作りはもちろん、取材対応も変わらず多い。
なにより、学校生活が激変した。
廊下で知らない生徒とすれ違うたびに視線を感じるようになった。昼休みになるとサインをねだられることも格段に増えた。
喜びとともに身が引き締まる。
「今までになかった自覚が持てるようになったというか。後輩の手本にならないといけないですし、世間の人たちからももっと見られるようになるんで。そういったところで、責任の重大さを覚えたりしました」
笑顔はまだ、あどけない。だが、言葉に打ち出された覚悟。自分が進んできた道は正しかったんですよ――吉野の目にはそう訴えかけるような、芯の強さがあった。
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