吉野は、自分に苛立っていた。

　2年夏の独自大会では下級生で唯一、準優勝を知る選手だった。新チームで主将を務めるべきではないか？　と覚悟を決めつつあったが、監督から「お前はチームのために全力で野球に打ち込んで、結果で引っ張ってくれ」と背中を押され意気に感じた。しかし、そのことによって肩に力が入り過ぎ、秋季地区大会では思うような打撃をできずに終わった。

　吉野が当時のやり場のない感情を思い起こす。

「『自分が引っ張らないといけない』ってプレッシャーがありました。そこに『プロ注目』って肩書もついてくるようになって、『みんなの手本にならなきゃいけない』とか責任感が出てしまったことが空回りに繋がって、予選で全くチームに貢献できなくて。自分の世界に入り込んで、チームメートの存在を忘れかけた時期がありました」

　苛立ちや不甲斐なさが、行動に出てしまう。

「お前たちは、なんであれを見過ごすんだ？」

　練習に身が入らない。翌春のセンバツを懸けた県大会が間近に迫っているのに、下を向いている時間が長い。誰もがチームの士気を高めようと気迫を出しているのに、声すら出さない。コーチも仲間もそんな吉野に気づいている。だが、不振の中心選手を気遣うばかり誰も咎めようとしなかった。

　そんな重苦しい空気を一刀両断したのが、監督の黒坂だった。

「お前たちは、なんであれを見過ごすんだ？」

　まず、そう言って選手全員がいる前でコーチを叱責し、すぐさま吉野へ矛先を向ける。

「誰からも何も言ってもらえないって、そんな寂しいことないだろ。いつまでも不貞腐れてないで、そこは自分で気づかないと」

吉野が直訴「メンバーから外してください」

　練習は一時中断した。急遽、選手だけでのミーティングが開かれ、意を決した主将の岸望樹から、吉野は苦言を呈された。

「中心選手がずっと下を向いたり、消極的なプレーしてたらチームの士気が下がるんだよ。せっかくいい雰囲気で練習をやれてるのに、お前が台無しにしてる。このままだとチームは悪い方向に進むんだよ」

　そうだ。吉野が我に返る。

　気持ちに波がある。それは、自分が高校で一番変えたかった弱みじゃなかったか。

「なにやってんだろう……」

　自らを省みると、ため息しか出なかった。吉野が監督に申し出る。

「県大会のメンバーに僕がいたらチームにとってマイナスなんで、外してください」

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