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「メンバーから外してください」楽天ドラ1・吉野創士は監督に直訴した…昌平高2年秋に起きた“事件”〈本人インタビュー〉

posted2021/12/05 06:01

 
「メンバーから外してください」楽天ドラ1・吉野創士は監督に直訴した…昌平高2年秋に起きた“事件”〈本人インタビュー〉<Number Web> photograph by KYODO

ドラフト1位で楽天入団に合意した昌平高・吉野創士(左)と恩師の黒坂洋介監督(右)

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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KYODO

 2021年のドラフト会議で楽天からドラフト1位指名を受けた吉野創士(18歳)。楽天入団に合意した吉野本人と、昌平高の恩師・黒坂洋介監督が振り返る“高卒ドラ1”になるまでの奮闘記――。(全2回の前編/後編へ)

 吉野創士には、これまで決して口外してこなかった願望があった。

 早くから名を轟かせていた昌平高校のスラッガーは、3年になると「ドラフト候補」として日に日に注目度が高まっていた。吉野を追う記者たちが、少しでも有力な情報を引き出そうと質問を投げかける。

――憧れや目標とする選手は?

「楽天の浅村(栄斗)選手です」

 吉野がはっきりと打ち出す。

――好きな球団は?

「いや……特にはありません」

 自身の出身地である千葉はロッテ、昌平のある埼玉は西武のホームだが明言を避ける。

「目標としている選手くらいはいいけど、相手がいることなんで、『あんまり具体名を口に出すな』と本人には言っていました」

 昌平の監督、黒坂洋介は、それが自分の指示だったのだと明かす。仮に好きな球団を挙げたとすれば、ドラフトが近づくにつれ吉野が「そこへ入団したがっている」と曲解されかねない。黒坂は相手を尊重した立ち振る舞いを彼に求めていたのである。

「指名されたらグータッチでもするか」

 10月11日、ドラフト会議当日。吉野は一抹の不安を抱えていた。

 夏の埼玉大会では腰の負傷などもあり思うようなパフォーマンスを発揮できず、決勝戦で涙を呑んだ。高校通算56本塁打と実績を残したが、だからといって必ず指名される保証などない――そう考えていたからだ。

 居心地が悪そうにしていた吉野は、黒坂から不安を取り除くように告げられる。

「1時間くらい座って待ってることになるかな? 指名されたらグータッチでもするか」

 しかし、黒坂の予想は外れた。

 12球団で最初に1巡目を選択したDeNAから2分後に名前がコールされ、3分後には交渉権を獲得した球団が決まったのである。

 吉野が指名されたのは楽天だった。

吉野がはじめて明かした“意中の球団”

 安堵の表情を浮かべる。黒坂とグータッチをすると笑顔が弾け、間もなく涙が頬を伝った。「驚きと喜び」。吉野は指名会見でそう想いを語ったとされるが、それだけではない。

 吉野は強き想いの結実を、噛みしめていた。

「自分はどの球団でも入団するって決めていたんですけど、一番行きたかったのが楽天で。スカウトの沖原(佳典)さんが毎回、試合に来てくれていることは知っていましたし、伸びしろっていうところを評価してくださって1位に指名してくれて、本当に嬉しくて」

 吉野がこれまで公にしなかった本懐。それが、「楽天に行きたい」だった。

 教え子の想いを知りながら「口に出すな」と促していた黒坂も、昌平初のプロ野球選手となった吉野の感極まる姿に心を揺さぶられる。「やったな!」と肩を叩き、男泣きした。

【次ページ】 甲子園出場経験がない高校に進学した理由

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