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野球クロスロードBACK NUMBER
「浅村選手の動画を観ていたら『あ、あの曲だ』って」“相思相愛”だった楽天と吉野創士(ドラフト1位)…監督「運命的なものを彼は持っている」
posted2021/12/05 06:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
昌平高校1年の2019年夏。吉野創士は楽天生命パーク宮城にいた。
青々と生い茂る天然芝。チームカラーであるクリムゾンレッド一色の観客席から轟く歓声。吉野は楽天のホームグラウンドで、どうしても目に焼き付けておきたい選手がいた。
「浅村さんと一緒に野球がやりたい」
悠然とした構え。リラックスしているかと思った瞬間、鋭く切り裂く鷲の爪の如くバットを一閃させ、ボールをしばき倒す。インパクトから放たれた打球は、弾丸のように速い。
憧れであり、目標とする浅村栄斗の打撃は、高校生を魅了するには十分すぎた。
吉野の目の輝きが、そのことを強調する。
「観に行った試合で浅村選手にホームランは出なかったんですけど、打球がとにかくすごくて。やっぱり実際に見ると違うなって」
浅村は西武時代の18年に打率3割、30本塁打、100打点を記録していたように長距離打者のイメージはすでにあったが、吉野が浅村を目標と定めたのはフリーエージェントで楽天に移籍したこの年からだった。自分の打撃スタイルとハイレベルなプロのバッターを照らし合わせた際に、「この選手だ」と激しく共感を抱いたのが浅村だったというのだ。
吉野が雄弁になる。
「西武時代もすごいと思いながら見ていましたけど、楽天に入ってからはホームランという部分で格段にレベルが上がっているように感じて。浅村選手は広角にホームランが量産できるバッターで、そういったところも自分に似てるなって。あとは、タイミングの取り方とかもそうですし、スイングの軌道も……あの、浅村選手ってトルネードじゃないですけど、体を捻じって遠心力でボールを飛ばすような感じじゃないですか。そういうところとか、自分もそうなんで」
動画サイトで浅村の打撃を、それこそむさぼるように観ては、細部に至るまでチェックするのが吉野の習慣となっていた。監督の黒坂洋介が「完璧を追い求めるようなところがある」と評していたように、ひとつでも気になると妥協することなく改善に取り組む。そんな探求心が吉野にはある。
それは、彼のこんな意識からも窺える。