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松井秀喜は「5打席連続敬遠」に怒っていたのか? “わかり合えなかった”星稜と明徳義塾、本人が語った「野球の質が違った」の真意

posted2021/12/11 11:02

 
松井秀喜は「5打席連続敬遠」に怒っていたのか? “わかり合えなかった”星稜と明徳義塾、本人が語った「野球の質が違った」の真意<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

四番・松井秀喜を「5打席連続敬遠」で封じられた星稜は2−3で敗れた。松井は、「野球の質が違った」、そんな表現を何度も使っていた

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Sankei Shimbun

1992年8月16日、甲子園球場で「事件」は起きた。明徳義塾による星稜・松井秀喜の5打席連続敬遠策である。あの試合、一度もバットを振れなかった松井、そして星稜と明徳義塾の選手たちはどんな思いでグラウンドに立っていたのか――。社会問題にまで発展した試合の真相に迫った『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』(集英社文庫)。そのなかから、星稜と明徳義塾を隔てた“野球観の違い”を紹介する。(全3回の後編/前編へ、中編へ)

 一回目のインタビューのとき、松井は自分がいかに平常心を保っていたかをしきりに強調していた。

「怒りの感情はぜんぜんなかった。ただ勝ちたい、それだけでしたね」

「敬遠されてもぜんぜん悔しくなかった。他の人が打ってくれると思ってましたし」

「自分が打てる打てないなんてどうでもいいんですよ。試合に勝ちゃ」

 そのときは、松井はやっぱり超然としているんだな、そう思った。ただ、その一方で異物を無理に飲み込んでしまったかのような気持ち悪さも残っていた。

敬遠策に松井は怒っていたのか?

 そうしたら、二度目のインタビューをする前に、こんな記事を見つけた。「静かなる誓い・巨人入団を前に」と題されたその一問一答式のインタビュー記事は、『Sports Graphic Number ベスト・セレクションⅣ』(文藝春秋)という本の中に収録されていた。

 五敬遠のときの話題となり、インタビュアーの「やっぱり、松井君自身も怒ってた」という質問に対し松井はこう答えている。

《怒ってましたよ。ただ表に出さないだけで。本当は燃えてましたよ。ストライク投げろ、打たせろ、と。自分たちが勝てないのは気が優しすぎるからですよ。絶対そうです。監督もね。土地柄もあると思いますけど、性格がトンガったヤツはいないんですね》

 内田の「何で打たせてくれんか!」という叫びと重なった。やっぱりそうだったのか、と。

 この頃の松井は、こんなにも率直に心のうちを吐露していたのだ。二度目のインタビューのとき、松井の前でこのコメントを声に出して読み上げてみた。当時の松井さんはこんな風に話していたんですね、と。すると、

「そうかもしれないですね。でも、それは本心は本心だったんでしょうね。感情は出さないまでも、自分の中ではいろんなことを思ってますよ、それはね。しょうがないと思いながらも、打ちたいと思いますし」

 まるで、他人のことを話しているかのような口ぶりだった。

【次ページ】 松井「わかり合えなかったんでしょうね」

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