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《高校野球史上最大の事件》沸き起こる「ショ、オ、ブ!」コール、迎えた5度目の打席…松井秀喜に“一度もバットを振らせない作戦”に甲子園が割れた

posted2021/12/11 11:00

 
《高校野球史上最大の事件》沸き起こる「ショ、オ、ブ!」コール、迎えた5度目の打席…松井秀喜に“一度もバットを振らせない作戦”に甲子園が割れた<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

社会問題にまで発展した松井秀喜の「5打席連続敬遠」。松井をはじめとした選手たちの回想と、知られざる舞台裏とは

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中村計

中村計Kei Nakamura

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1992年8月16日、甲子園球場で「事件」は起きた。明徳義塾による星稜・松井秀喜の5打席連続敬遠策である。あの試合、一度もバットを振れなかった松井、そして星稜と明徳義塾の選手たちはどんな思いでグラウンドに立っていたのか――。社会問題にまで発展した試合の真相に迫った『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』(集英社文庫)。そのなかから、選手たちの回想と、知られざる舞台裏を紹介する。(全3回の前編/中編へ、後編へ)

 松井の第四打席は、七回表、2アウト後に訪れた。初めてランナーがいない状況で回ってきた。星稜は依然として2−3と一点のビハインド。

「もしかして……と思いましたけどね。もうあそこまできたら驚かないですよね」

 初球、河野が投じた真っ直ぐは、またしても大きく右に逸れていく。

 この直前、馬淵は宙に右手人差し指で「4」と書いていた。それを確認した青木も、「当然だよな」、そう納得していた。青木が言う。

「どれがどれかは忘れてしまったんですけど、当時、1、2、3、4ってサインがあって、3は確かスライダーで、4は敬遠のサインだったんですよ」

「ショ、オ、ブ!」。超満員のスタンドが揺れた

 主将の筒井健一も平静を保っていた。

「疑問はぜんぜんなかったですね。一点差でしょう? あそこで四番に一発打たれたら、かさになってかかってくる。この作戦は、徹底するからこそ意味があるんです」

 マウンドに立っていた河野和洋も同じ「方向」を見ていた。そして「実は松井どころじゃなかったんですよ」と戯けてみせる。

「おろしたてのグラブだったんですけど、ヒモがほどけて、ほどけて。二重に結んでもすぐほどけちゃう。それが投げるときに手に当たるもんやから、気になってしょうがなかったんですよね」

 そして事も無げにこんなことを言う。

「六回か七回ですかね。ベンチの前でキャッチボールしてたら、ヤクザみたいな兄ちゃんがネットに近づいてきて、『殺すぞ。覚えとけよ』って。あれはちょっと怖かったですね」

 ただ、松井見たさに超満員に膨れ上がっていたスタンドは黙っていなかった。松井が打席に入るとともに、期せずして、「ショ、オ、ブ!」「ショ、オ、ブ!」という勝負コールが沸き起こる。一球外れるごとに、そのボリュームは大きくなっていった。

【次ページ】 「『刺すぞ!』とか言いながら、金網をよじ登ってきたんです」

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