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松井秀喜は「5打席連続敬遠」に怒っていたのか? “わかり合えなかった”星稜と明徳義塾、本人が語った「野球の質が違った」の真意
text by
中村計Kei Nakamura
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/11 11:02
四番・松井秀喜を「5打席連続敬遠」で封じられた星稜は2−3で敗れた。松井は、「野球の質が違った」、そんな表現を何度も使っていた
プロに入り、松井は高校時代にも増して冷静に振舞うようになっていた。いや、冷静さを装うようになった。それはこのように昔の感情を「偽証」していたことからもうかがえる。
ただ、そう振舞えば振舞うほど、それとは対極の感情がにじみ出ているのを感じずにはいられない。
「そうでしょうね、成分的にはそういう部分の方が多いんじゃないですか。だから意識して出さないようにしている。両極でバランスをとるようにしてるんだと思います。勝利に対する強い気持ちだとか、ボールに対する執着心とかは誰にも負けないと思ってますから」
人一倍の野性を、人一倍の理性で御しているのだ。
中学生のころ、バットを叩きつけた松井は、今も松井の中に確実に生きている。
松井「わかり合えなかったんでしょうね」
星稜はこの試合、結局2−3で敗れた。
バックスタンド前に整列し、あいさつを終えると、松井ら星稜の選手のほとんどは明徳ナインの存在を無視するかのようにそそくさとベンチに引き上げた。
整列時、松井と相対していた明徳の主将、筒井が述懐する。
「普通は、目と目が合って、自然と握手の雰囲気になるんですよ。それが松井の場合はヘルメットをかなり深くかぶっていたんでね。目が見えなかった。だから僕の方も握手にいくきっかけがなかったんです」
星稜の福角は「ムッとしてたんでしょうね」と正直な胸の内を明かす。
「きったねえことしやがって、というのはありましたよ。松井と笑い話をしたことがありますもん。あのときのあいさつを真似してね」
そう言うと、福角は立ち上がって、あのときのあいさつを再現してくれた。帽子をとりながらお辞儀をし、その頭をたれたままの姿勢で回れ右をした。相手の顔を見たくない、そんなあいさつの仕方だった。
松井は神妙な顔で「わかり合えなかったんでしょうね」とつぶやいていた。
「口裏を合わせていたわけではないんですけどね。だから、みんな同じ気持ちだったんだと思いますよ。みんな気持ちの優しいやつらばっかだったんですけど、あのときはさすがに怒ってた。みんなね」
松井に、もし明徳の選手に会う機会があったとしたら何か聞きたいことはあるかと聞くと、ずいぶんと長い時間考えたあとこう答えた。